これは、甘くてフワフワな恋愛物語でありません。むしろ、人を愛することの苦味や痛みに焦点を当て、それでも人を想い、絆を繋いでいくことの大切さを具に描き出した物語です。
人気アパレル会社の社長である美しい女性、本宮礼。彼女の義理の娘、空の家庭教師をすることになった西本真。真は空の反抗的な態度に手を焼きますが、次第に彼女たちの複雑な家庭環境を深く知るようになります。空と礼からの信頼を少しずつ得るようになった真。やがて真と礼はお互いの深い想いを通わせるようになりますが、礼には傲慢で身勝手な夫がおり……。
家族とは、絆とは何か。この物語を読み終えて胸に強く響くのは、この問いかけです。人と人との絆とは、つまり何なのか。法律や紙の上で結ばれれば、果たして幸せが手に入るのか。本当の愛情とは、法律で固められたその場所とは全く違う場所にも生まれ、育つものではないか。一番大切なことは、きっと互いを想い続けること。恨み、憎むのではなく、誠実に人を想い続けることが、結局は自分自身に大きな幸せをもたらすのではないかと——そんな大切なメッセージが、深く心に残ります。
ずしりと重い大人の恋愛物語。おすすめです。
30歳にして大学生の真さんが主人公です。
そして、社長であり人妻である礼さんの娘「空」の家庭教師を訳あってすることになりますが……ここから、愛の鎖である世界がジワリジワリと広がって行きます。
とにかく、真さんの周りを囲む関係が、もどかしくて…人それぞれが抱く「愛おしさ」が伝わって来る世界観に、読者も一緒に良い意味で苦しんで悶えることになります(>_<)本当に心情の描写が巧みです。
夜に読むとさらに世界が濃く映し出されるような、もどかしくて、愛おしい……人の心を浮き彫りにする愛の物語なので、眠れない夜に『愛の鎖 ~淑女と悪女~』の世界を訪れてみてはいかがでしょうか……?
少し頼りないアラサー大学生の西本真。
主人公の彼を取り巻く三人の女性。
誰が淑女で、誰が悪女なのか、タイトルの示す意味にまず興味を引かれます。
読み進めていくうちに、登場人物の誰もが不器用で、まっすぐな思いを胸に秘めていることがわかります。
それは、家庭内暴力を振るう酷い男の心にもあるのです。
そんな登場人物の織り成す愛憎劇にいつしかどっぷりはまってしまい、それぞれの幸せを祈らずにはいられないのですが、複雑に絡み合う思いをほどき皆が幸せを掴むというのは到底無理な話で……
離れゆく心を自覚できない真と、彼を愛しているのに引き止めることのできない奈央の苦しみは、心の動きが特にリアルで、恋の終わりってこういうことだったりするよね……と胸が痛くなります。
けれども、そこで簡単に終わらないのがこの物語のすごいところ。
衝撃のラストは必読です!
三十歳の西本真(にしもと・しん)くんには、二十歳と若い恋人の平原奈央(ひらはら・なお)さんがいる。
一緒に暮らしており、同衾するも遅刻に至るという。
言い訳も甚だしい。
真くんが大学だけではいけないと、MILKYで、アルバイトでの話だ。
これで、首の皮が繋がる訳がない。
そこで、本宮礼(もとみや・れい)美人社長に、後に素の姿も見ることになるが、彼女から、令嬢の本宮空(もとみや・そら)さんの家庭教師の話を持ち出される。
その空さんのキャラクターが、私は、好きだ。
あたしとついた口から紡がれる言の葉は、突っ張って痛い位だ。
だが、彼女の本心は、勉強に不自由がないことなどではない。
家庭教師、真をおちょくるのも上手いが、それは、見栄ではないだろう。
私の見解では、三十歳の男性の気持ちは、フレッシュなんだろうと感じられる。
フレッシュのエントランスだと思う
それに、生徒の空さんは十五歳、フレッシュではなくて、ミックスジュースのような独特な味わいを感じた。
筆者は、常日頃読みやすい文体を心掛けているのが、本作を読んでも見受けられる。
研鑽を積まれており、本のような作りでウェブ小説を発表なさっているのも、新鮮さは褪せない。
様々なキャラクターの視点から描く形を得意とするのも素晴らしい筆力だと思う。
本作も筆者の秀作だ。