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「いただきます。社長の家は白亜の大豪邸だよ。流石大富豪だよな。リビングの床は大理石だし、天井には豪華なシャンデリアがぶら下がってる。まるで高級ホテルの一室みたいだった」


 俺は御飯を掻き込みながら、夢中で喋る。

 奈央はカップスープを「フーフー」冷ましながら、俺に視線を向けた。


「そうじゃなくて、女の子だよ。生徒はどんな子だったの?」


 奈央が興味あるのは、白亜の大豪邸ではなく空のことか。


「かなり手強いな。一学期の成績が落第点だっていうから、試しに実力テストをしたら、スラスラ解いて満点なんだ。家庭教師なんかいらないくらい優秀で、帰国子女だから英語はペラペラ、俺より完璧。ただ……」


「真より完璧?それ家庭教師必要あるの?」


「大豪邸で何不自由なく暮らしているのに、中身がないっていうか。社長も空も寂しい目をしてるんだ。空は反抗的で生意気な女の子なんだけどさ。無理して強がってるって言うか……。強がることで寂しい心を誤魔化してるみたいな……」


 そう……空はまるで仔犬だ。

 弱さを誤魔化すために、わざと吠える。

 そうすることで、自分の寂しさを誤魔化している。


「社長はMILKYで働いていた時とは別人に見えた。冷酷な美人社長だと思ってたけど、家庭にいる社長は、全然イメージが違ったんだよ。実年齢は俺より上だけど素顔は俺より下に思えた」


 それに夫の話をした時、一瞬寂しそうな目をした。


 大きな瞳の奥が、暗く沈んで見えた……。


「真、どうかしたの?」


「いや、何でもない。今日の唐揚げ美味いよ。ポテトサラダも美味しい」


「本当?」


「うん、本当。いつもより美味しいよ。唐揚げ粉変えた?」


「ごめんなさい。それ、コンビニのお惣菜なんだ。大学の友達と偶然逢って遅くなったの。……ごめんね」


「そっか。全然気にしてないよ」


 奈央の笑顔を見たら気持ちが和む。

 コンビニの惣菜でも、奈央と一緒に食べる夕食は美味い。

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