エピローグ キス

第50話 キス

 次の日。

 由利は普通に学校に登校してきた。


「昨日はいろいろと迷惑をかけてごめんなさい」


 引きこもりになり、助けにきてくれた浩輔と汐音に向かって由利は頭を下げる。

 ここは校門付近のあまり人ごみがないところ。


 そこで浩輔、汐音、由利、莉奈は昨日のことについて話していた。


 由利は昨日のことで浩輔や汐音に迷惑をかけたと思っていたのだろう。


「迷惑なんて思ってないよ」

「そうそう。こういう時はごめんなさいよりも良い言葉があるよね」


 浩輔も汐音も昨日ことを迷惑だとは思っていなかった。

 むしろ勝手に部屋に入り込んで部外者が説教をする。


 逆に迷惑な方は浩輔たちの方だっただろう。


「だってよ、お姉ちゃん」


 隣ではいたずらな笑みを浮かべている莉奈がいる。

 今日の朝は姉妹そろって登校してきた。


 これで二人のわだかまりもなくなったのだろう。

 それに気づいた由利は違う言葉を伝える。


「ありがとうございました、浩輔君、汐音さん」

「どういたしまして」

「良いの良いの由利ちゃん」


 いつの間にか汐音が由利のことをちゃん付けで呼んでいることに浩輔は驚いた。


「ありがとう、浩輔君……汐音ちゃん」


 由利も汐音にちゃん付けで呼ばれたのが嬉しかったのか、汐音のことをちゃん付けで呼ぶ。

 昨日のおかげで由利と浩輔、由利と汐音、由利と莉奈の距離はかなり近くなったと思う。


 雨降って地固まるとはよく言ったものだ。


「昨日だけでもう仲直りしたの」


 そこに昨日由利の家に行けなかった香織がやって来る。

 そこには龍次もいた。


「なんだそんな人気のないところで」


 龍次はこんな人気のないところにいることに不審を抱いたのだろう。


「龍ちゃん気になるの~可愛い~。別に嫌らしいことなんてしてないよ」


 いつも通り汐音が龍次をからかう。


「別に嫌らしいのはお前だろ」


 さすがは龍次。

 常に冷静である。


「これは一本取られた」


 汐音はひょうきんな笑みを浮かべて自分の頭を叩く。


「汐音さん。浮気なんかしたら絶対に許しませんわ」


 龍次の妹の香織は浮気もしていないのに勝手に一人で怒っている。

 香織を怒らせたら怖いことは身をもって体験している。


「大丈夫大丈夫。私は龍ちゃん一筋だから。なんならここで青姦でもする。いて」

「馬鹿なこと言ってんじゃねー」


 汐音が馬鹿なことを言い、龍次が汐音の頭に拳骨を落とす。

 本当に龍次がまともな人で良かったと浩輔は心の中で安堵する。


「なっ……なっ……」


 香織は冗談だと分かっていても動揺している。

 それはそれで可愛らしい。


「私と咲夜は青姦をしたわ」

「私と輝夜は青姦をしたわ」

「野外プレイは良いよ」

「開放的な気持ちになるし」

「見つかったらおしまいというドキドキもするし」

「とても楽しかったわ」

「とても気持ちが良かったわ」

「最高の気持ちだったわ」

「またやりたいね、咲夜」

「またやりたいね、輝夜」


 せっかくまともな空気に戻ったのに、輝夜と咲夜が乱入してきたせいでまた空気がおかしくなった。

 それにしても輝夜と咲夜が青姦の経験済みだったとは。

 童貞の浩輔からすれば羨ましい……ではなくけしからん。


「……やっぱり伊藤兄妹ってインパクト強いよね」


 友達が多い莉奈も伊藤兄妹には距離感を抱いている。


「あおかん?」


 唯一青姦の意味を理解できない由利は首を捻っている。


「そんなくだらない話をしてないで、さっさと教室に行くぞ」


 さすが唯一の上級生。

 顔は不良なのにとても真面目である。

 唯一の上級生と考えると龍次も気まずさを感じているのではないだろうか。


 ふと浩輔は考える。


 龍次以外みんな高校二年生。龍次だけ高校三年生だ。

 高校生にとってこの一年の年月は大きい。


「そうだね。そろそろ教室に行きましょ……あっ」


 由利も頷き教室に向かおうとした時、由利がなにもないところで足が取られる。


「由利さん」


 浩輔は反射的に由利を受け止めようとするものの力が入らず、そのまま押し倒される。

 背中に走る衝撃と痛み。

 そして唇の温かさと手の柔らかさ。


 ワッツ?


「「「はわぁ……」」」


 汐音たちは変な声を出している。

 浩輔は恐る恐る目を開けると目の前には由利がいた。

 そして由利の唇が浩輔の唇と重なり、浩輔の手が由利の胸を包んでいる。


 控えめに言ってもなにもない胸。

 平原だった。


「ご、ごめんなさい」

「僕こそごめん」


 由利は申し訳なさそうに浩輔の上からどけ、浩輔も顔を赤く染め由利に謝る。

 浩輔にとってあれがファーストキスだった。

 そのためどんな反応を取れば良いのか分からなかった。


「……お姉ちゃんが浩輔君と青姦してる」

「浩輔君も由利ちゃんも大胆ね」

「みんなの前で青姦するなんて」


 妹の莉奈は初めて見る姉の情事に、動揺を隠せないようだった。

 輝夜と咲夜は面白そうに二人を見つめている。


「私たちも青姦しようよ」

「馬鹿か、お前は」


 汐音は馬鹿なことを言い、龍次に怒られている。


 しばらくの間、お互い視線すらも合わせられなかったのは言うまでもない。

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妹が眩しくて 葵希帆 @kiho

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