第49話 漆原姉妹③

 ここからは姉妹の時間だ。

 浩輔はそう思い、汐音と一緒に隅の方に移動する。


「どうして莉奈がその話を知ってるの」

「実はな」


 浩輔は今までの事情を話す。

 事情を聴いた由利は怒るどころか納得した表情を浮かべていた。


「それで莉奈はどう思った。私のこと幻滅した」


 由利は自嘲する。こんな頼りない姉ということを。


「馬鹿。あたしはお姉ちゃんのこと一度も幻滅していない。それにあたしはずっとお姉ちゃんのことが大好きなの。そう思ってるのはあたしだけなの」


 莉奈もそうとうため込んでいたのだろう。

 まるでダムが決壊したかのように言葉が次々とあふれ出てくる。


「……そんなわけじゃない」


 由利は莉奈の圧力に押され、声が小さくなる。


「あたしはお姉ちゃんの妹で幸せだった。いつも隣にいてくれて嬉しかった。それにあたしはお姉ちゃんにお姉ちゃんらしさを求めていない。ううん、お姉ちゃんはお姉ちゃんだけどそんなに肩肘を張らなくても良いって意味。あたしにだってできないことだってあるよ。例えばお姉ちゃんの気持ちに気づけないダメダメな妹とか、お姉ちゃんを傷つけて最低の妹とか」

「莉奈は最低な妹じゃない。私にとって莉奈は最高の妹だよ」

「あたしもだよ。お姉ちゃんは最高のお姉ちゃんだよ。だからそんなに自分を責めないで」


 お互いが好きがゆえにすれ違ってしまった今回の出来事。

 莉奈は由利を優しく抱きしめる。

 由利は莉奈のこと最高の妹だと思い、莉奈も由利のことを最高の姉だと思っている。


「それにあたしはお姉ちゃんから浩輔君を奪ったとは思っていないから」

「でも莉奈は私よりも浩輔君と仲良いじゃない」

「それはいつものことだよ。あたし友達作るの上手いからすぐに仲良くなれるの」

「うぅ~意地悪」

「だから浩輔君だから仲が良いってわけじゃいのよ」


 これで一件落着だろうか。


 お互いお互いの誤解が解け、さらにお互いの気持ちを知ることができた。

 姉は妹に劣等感を抱き嫉妬し、妹はそれに気づくことができず姉のことを理解できなかった。


 でも今回の喧嘩で二人はお互いの本音を知り、さらに仲良くなることはできたのではないだろうか。


「良かったねお兄ちゃん」

「そうだね。二人が仲直りして良かったよ」

「私たち兄妹なのにどうして喧嘩ばかりしちゃうのかな」


 汐音からの哲学的な質問。


「それはお互いが大切だからなかなか自分の本音を言えないだけも知れないね」


 完璧に正解だとは思わないがそれも一つの真理だろう。

 由利も莉奈もお互いがお互いを好きである。

 浩輔も汐音のことが好きで、汐音も浩輔のことが好きである。

 好きなのになぜ喧嘩をするのか。

 それはお互いが大切だからこそ、なかなか本音を言えないからだろう。

 そのせいで少しずつすれ違い、最後は大爆発を起こし喧嘩になってしまう。


 浩輔はそう考える。


「……もしかしてお姉ちゃんって浩輔君のこと好きなの」

「へっ、べ、別にそんなんじゃないよ」


 莉奈は由利になにを言ったのだろうか。

 由利の顔が真っ赤である。

 でもそれは漆原姉妹だけの秘密だろう。

 部外者の浩輔が聞くのは野暮だろう。

 こうして漆原姉妹の初めての大喧嘩は幕を下ろした。

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