第47話 漆原姉妹➀

 浩輔たちは学校が終わってから由利たちの家に向かった。


「残念だってね香織ちゃん」

「そうだね」


 汐音と莉奈はここにはいない香織のことを話している。

 本当は香織も行く予定だったのだが、先生に捕まり浩輔たちを逃がしてくれたのだ。


『ここはあたしに任せて行ってください』


 そういう香織はまるで主人公をラスボスまで連れて行く仲間のように頼もしかった。

 そのせいで、香織はここにはいない。

 そんな会話をしながら由利たちの家に到着する。


 普通の二階建ての一戸建て。

 今日は莉奈がいるのでインターホンを鳴らさずそのまま家に入る。


「お姉ちゃんの部屋はこっちだよ」


 莉奈が由利の部屋に案内する。

 由利の部屋は二階らしく、二階に上がる。


「ではよろしくね、お兄ちゃん」

「浩輔君、お願いね」


 汐音と莉奈の妹たちに見守られながら、汐音たちは莉奈の部屋に入り、浩輔は一人由利の部屋をノックする。


 だが無反応。


「こんにちは由利さん。浩輔です」

「こ、浩輔君」


 きっとノックの相手は莉奈だと思ったのだろう。

 そこで予想外の浩輔の登場だ。

 由利が慌てるのも無理はない。

 由利は慌ててドアを開ける。


 そこには白いパジャマに身を包んだ、珍しい由利がいた。

 ご飯とかは毎日食べているらしく、体は健康そうだが心が病んでいるのかやつれているように見えた。


「ご、ごめんね。こんな恰好で」

「僕は気にしてないよ。それにここで立ち話もアレだから中に入っても良いかな」

「う、うん。汚いけどどうぞ」


 さすがに客人を廊下に立たせておくのは失礼だと思ったのだろう。

 由利は予防線を張りながら浩輔を自分の部屋に招き入れる。


 浩輔は友達が少ない。


 そのため、汐音以外の女の子の部屋に入ったのはこれが初めてだ。

 由利がずっといるため、由利の匂いがする。

 それが不快というわけではなく、むしろ良い匂いだった。

 最低限のものしか置いていない由利の部屋。

 ファンシーなものはなく、機能性重視の部屋だった。

 浩輔は適当に座り、その対面に由利が座る。

 まるでお見合いのような気まずさを覚える浩輔。


「これ、今日渡されたプリント」

「ありがとう」


 とりあえず無難な話題から入る。


「……」

「……」


 友達が少ない浩輔とコミュ障気味な由利。

 当然、気の利いた話題など出るわけもない。

 もしこれが汐音だったら良い感じに話題を提供することができるのだろう。

 しかし汐音は隣の部屋にいて、ここにはいない。


「僕と由利さんて似てるよね。双子でお兄ちゃん、お姉ちゃんだし」


 浩輔は自分ではかなり自然な話し方で本題に入れたと自画自賛する。


「それに妹も同じだしさ」

「……」


 浩輔だけが話して、由利はなにも話してくれない。

 もしかしてこの言い方は失敗だったのだろうか。


 急に浩輔は焦り出す。


「僕も汐音とはいろいろ喧嘩してね。アイスを食べた食べていないとか。どっちがテレビを見るとか。双子でも喧嘩なんて日常茶飯事だよ」


 浩輔は莉奈に話した内容を由利にも話してみる。

 二人は初めての姉妹喧嘩だから戸惑っているのだろう。


 でも兄妹喧嘩なんてどの兄妹でも当たり前にやっていることだ。

 浩輔のところもそうだし、龍次のところもそうだ。


「……う」

「なんだって」


 由利がなにか話したが、浩輔は聞き取ることができなかった。


「私と莉奈の喧嘩は違うの」


 今度はちゃんと聞き取れた。

 由利と莉奈の喧嘩は普通の姉妹喧嘩と違う。


 一体、どういうことだろうか。


「どう違うの」


 浩輔は由利の言っている意味が分からずオウム返しで聞く。


「だって私はなにもできないから」


 由利はそう話し始めた。

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