第46話 妹はお兄ちゃん、お姉ちゃん好き

「初めての姉妹喧嘩で……お姉ちゃんが怒ったところ初めて見た」


 莉奈は今の自分の心境を語り始める。


「お姉ちゃんって大人しくて優しくて可愛くてあたし、お姉ちゃんのこと好きなのに。お姉ちゃんがあたしのこと嫌いって言ったときは辛かった」


 莉奈は涙声で話す。


 立ちっぱなしも疲れるため、浩輔たちは屋上に座りながら莉奈の話を聞いていた。

 それでまず分かることは、莉奈はとても由利のことが好きだということだ。

 汐音や香織のブラコンもそうだが、莉奈は相当シスコンだ。


「なんでお姉ちゃんがあたしのこと嫌いになったのか考えたけど分からなくて……お姉ちゃんも不登校になっちゃって。……あたしもどうすれば良いか分からなくて」


 初めての姉妹喧嘩。

 そのせいで、莉奈もどんなことをすれば良いのか分からないのだろう。

 普通なら謝ることが正解だが、理由もなしに謝るのは論外だし、この喧嘩は謝罪が正解だとは思わなかった。


「なるほど。莉奈ちゃんは由利さんのことがメチャクチャ好きなんだね」

「私も分かるわ。莉奈さんは由利さんのことが好き過ぎですわ」


 妹としてなにか通じるところがあるのだろう。

 二人とも莉奈の気持ちに共感している。


「汐音も香織さんもブラコンだからね」

「うん、私はお兄ちゃんのこと好きだよ」

「べ、別に嫌いではないわね」


 汐音は素直に浩輔に好意を伝え、香織はツンデレである。

 このツンデレだから大喧嘩したのに、もう忘れてしまったのだろうか。


「……汐音ちゃんが羨ましい」


 今は不仲になっている莉奈は、ラブラブの桐山兄妹が羨ましいのだろう。

 羨望の眼差しで見つめている。


「なら早く仲直りをしようよ」


 汐音は簡単そうに言う。


「でも、なかなかあたしの話も聞いてくれないし、避けられるし、どうすれば良いのか分からない」


 莉奈も家で、いろいろ由利にアプローチをかけてきたのだろう。

 しかし、莉奈のアプローチはどれも上手くいかず、そのせいで自暴自棄になっているようにも見える。


「やっぱり、お互い腹を割って話すのが良いわ」

「よっ、経験者」

「だからもう茶化さないで」


 汐音が香織を茶化すと、顔を真っ赤にしながら香織は抗議する。

 まさかここまで仲良くなるとは浩輔も思わなかった。


「でも香織さんの言うことも一理あるぞ。やっぱりお互い話さないと伝わらないこともあるしな」


 黙っているだけで相手が分かってくれると思うのは傲慢だ。

 人間、言葉にしないと大抵のことは伝わらない。


「汐音ちゃんと香織ちゃんはどうなの。お兄ちゃんと喧嘩した時ってどうしてた」


 汐音、莉奈、香織。


 この三人の共通点は『妹』である。


 喧嘩慣れしている妹の先輩として莉奈はアドバイスがほしいらしい。


「私の場合はお兄ちゃんが謝ることが多いかな。私がむんつけてお兄ちゃんが謝る。でも私から謝る時もあるね。その時は上目づかいで弱弱しくしたり、お風呂の中で謝ったり」

「私も同じで。基本兄さんが謝ってくれるわ。でも私も悪いと思う時は二人っきりになって謝るかしらね。やっぱりお風呂が良いかも。お互い腹を割って話せるっていうか」


 なるほど。


 香織の話を聞いて龍次も苦労していることが分かった。

 滅多に汐音とは喧嘩をしないが、したら浩輔が先に謝る確率の方が多い。


 やはり『兄』だからだろう。


 どうしても、すぐに謝ってしまう。


「でも今回は謝る前に話を聞くことが大事だな。由利さんだってきっと莉奈さんのことが好きだから。なにに怒っているのか話を良く聞く。これ大事」

「……でもお姉ちゃんに嫌いって言われたし」


 やはり莉奈は姉の由利に嫌いと言われたことを引きずっている。

 確かに浩輔も汐音に嫌いと言われたらかなり引きずるだろう。


「お兄ちゃんも私に嫌いって言われたら傷つく」

「当たり前だろ。汐音も僕に嫌いって言われたら傷つくだろ」

「うん、メチャクチャ傷つく」

「……私も兄さんに絶交されたら首を吊るわね」

「「えっ、そこまで」」

「ふふふ」


 意外だったのは汐音も香織も兄に『嫌い』と言われたら傷つくということだ。


 浩輔は汐音が好きだ。


 その汐音に嫌いなんて言われたら心が再起不能になる。

 それは妹側も同じで、兄に『嫌い』と言われたらもの凄く傷つくらしい。


 香織は首を吊るレベルである。


 それがおかしかったのか久しぶりに莉奈の笑顔を見た。


「それに莉奈さん。妹のことが嫌いな兄がいないように、妹のことを嫌いな姉なんかいないんじゃないかな。僕は汐音のことが好きだよ」

「私もお兄ちゃんのこと大好き」

「わ、私もですわ」


 妹が嫌いな兄がいないように、妹のことが嫌いな姉もいないだろう。

 だからきっと由利も莉奈のことが好きである。


 間違いない。


「莉奈さんも由利さんのこと大好きだよね」

「うん、大好き」


 莉奈はこんなにも由利さんのことが好きなのだ。

 由利も莉奈のことが好きだと思う。


「だったら、由利さんに会いに行こう」


 善は急げだ。


 この思いを早く由利に聞かせよう。

 莉奈の心に少しだけ余裕ができた。

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