第45話 初めての姉妹喧嘩

 教室では重い話なので、浩輔たちは一度屋上に上がった。


「ここで香織に脅されたんだよな」

「その話はもう終わったことでしょ」


 浩輔は少し場を和ませようと冗談を言った。

 香織は自分でもおかしなことをしたと思っているのか、少し恥ずかしそうにキレている。


「ゴメンね、みんな」


 屋上に辿り着いた莉奈は、なにに対して分からない謝罪をした。


「そんなことは大丈夫だよ。それよりも……」


 汐音でも莉奈に由利のことは聞きづらいのだろう。

 尻すぼみに言葉が小さくなっていく。


「まっ、なんですの。兄妹喧嘩なんて日常茶飯事よ」


 香織もオブラートに包みながら莉奈が言いやすいように話題を持っていく。


「そうそう。僕と汐音も結構喧嘩したし」

「そうそう。殴り合いの喧嘩もしたよね」

「小さい頃はね。お菓子を食べた食べられたとか」

「どのゲームキャラクター使うとか」


 浩輔も汐音も、兄妹喧嘩あるあるを話す。

 今はこうして仲の良い兄妹だが、それでも喧嘩するし、昔だって喧嘩した。

 それはしょうがないことだと浩輔は思う。

 いくら兄妹とはいえ、自分ではないし、そもそも長い間一緒にいたら喧嘩の一つや二つはする。


「香織さんだってこの前、木村先輩と大喧嘩したしな」

「あ、あれは私が悪かったわよ」

「香織ちゃんに怒られて、シクシク」

「嘘泣き下手よね、汐音さん」


 当時はどうしたら良いのか分からないほど、悩みもがいていたが、解決するとあっさり笑い話にもできる。

 香織もあの時は大人気なかったのか、そこに触れると面白いぐらい騒いでくれる。


 それに汐音の嘘泣きが下手すぎて笑えた。


「……あたし、今までお姉ちゃんと喧嘩したことないの」

「「「えっ……」」」


 あまりの衝撃的なカミングアウトに浩輔たち三人は固まってしまった。


「小さい時も」


 汐音がすかさず質問する。


「うん」


 それはかなりレアケースだろう。

 小さい時も喧嘩してこなかったなんて、なんて仲の良い姉妹だろう。


 いや、待て。もしかして。

 ここで浩輔はあることに気づく。


「もしかしてこれが初めての喧嘩なのか」

「……うん」


 これが初めての姉妹での大喧嘩。

 つまり莉奈の悩みって……。


「まさか仲直りの仕方が分からないのか」

「そうだよ。初めてお姉ちゃんと喧嘩してあたしも頭が真っ白になって……どうすれば良いか分からなくて。そこで双子の兄妹の浩輔君と汐音ちゃん、上にお兄さんがいる香織ちゃんに話を聞きたくて、ここに呼んだの」


 まさかの兄妹喧嘩の仲直りの仕方が分からないだった。

 それには反応すれば良いか分からず、浩輔たちも思考停止した。


「……まさか姉妹喧嘩したことがない姉妹がいるなんて」

「莉奈ちゃんと由利さんは珍しいよね」

「信じられないわ。今まで姉妹喧嘩したことがないなんて。私には姉や妹がいないから姉妹の関係は分からないけど、姉がいても妹がいても、絶対一回は喧嘩すると思うわ」

「私も」


 浩輔たちは汐音に聞かれないように小さな声で話し合った。

 勉強も運動も絵も音楽も友達もなんでもパーフェクトな莉奈。


 そんな莉奈にもできないことがあるなんて。


 まさか姉妹喧嘩の仲直りが分からないなんて。


「とりあえず今は莉奈さんと由利さんの話を聞こう」

「そうだね。まずは状況分析だね」

「でも喧嘩は時間が経つにつれて謝りづらくなるから」

「経験者は語るね」

「だからそのネタでもう私を弄るな、汐音ちゃん」


 とりあえず今の状況を把握した方が良いと思った浩輔は莉奈に話を聞く。

 体験者の香織は身に沁みてそのことが分かっているのか、説得力がある。


 それを汐音にからかわれて香織は顔を真っ赤に染めている。


 いつの間にこんなにも汐音と香織は仲良くなっていたのだろう。


 あの時の二人では考えられないことだった。

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