第41話 由利の慟哭

「そう言えば、私も莉奈ちゃんも香織ちゃんもみんな妹だよね」


 いきなり汐音が今、思い出したかのように言い出す。


「確かにそうね。私のところは双子ではないけど莉奈さんと汐音さんと同じ妹ね」


 香織も今、この三人組が妹ということに気づいたのか、神妙な顔で頷いている。


「凄い偶然だよね」


 莉奈はケラケラ笑っている。


「妹同士なにか波長が合うんじゃないの」


 妹ではない浩輔は分からないが、そういう波長とかあるのだろうか。


「それは半分正解で半分不正解かもしれないね」

「そうね。妹なら咲夜さんとも仲良くなれていると思うし」

「……確かに私も咲夜さんは苦手ね」


 妹というよりかは相性の問題だと考えているのだろう。

 もし双子の妹だから仲良くなれたなら、汐音と莉奈は、咲夜と仲良くなれているだろう。

 しかし、咲夜はあの社交的な汐音や莉奈が敬遠するレベルだ。

 そういう単純な問題でもないのだろう。


「それを言ったら私と香織ちゃんだって最初は仲悪かったでしょ」


 今はもう気にしていないのか、汐音は平然とした顔でそう言った。


「あ、あれは」


 逆に香織の方はまだ気にしているのか、動揺している。


「確かに、汐音ちゃんも香織ちゃんも仲悪かったよね。ついさっきまで」


 莉奈も香織のからかっているのか、下品な笑みを浮かべている。

 確かに妹同士仲良くなれるなら汐音と香織の喧嘩も起こらなかっただろう。


 でもこれは結果論になるが、喧嘩したおかげで汐音と香織はお互いを分かり合い仲良くなれたと思う。

 そう考えるとあの喧嘩も必要なプロセスだったに違いない。


「……だってあの時は兄さんを汐音さんに取られたと思ったんだから仕方ないでしょ」

「あはは、そんなことしないよ。私は龍ちゃんの彼女だけど妹じゃないからね。龍ちゃんの妹はずっと香織ちゃんのままだよ」


 あの時の香織は龍次を汐音に取られたと思い込み、荒れていた。

 汐音は別に香織から龍次を奪ったわけではなく、ただ付き合っているという関係だった。


 そのすれ違いがあの大喧嘩の原因だった。


「……でも汐音さんのおかげで兄さんともまた仲良くなれたし良かったわ」


 あれから香織と龍次の溝も埋まったらしい。

 前のようにいがみ合う関係ではなく、普通の兄妹のように仲良く暮らしているらしい。

 でもたまに、汐音と龍次と香織の三人で喧嘩するらしいが、微笑ましいレベルの喧嘩らしい。


「まっ、私の兄さんは世界一素晴らしいからね」

「ちょっと待って。さすがにそれは言い過ぎだよ。だって世界一素晴らしいお兄ちゃんは私のお兄ちゃんだよ」


 香織も素直になり始めてきたので、平気で自分の兄のことを惚気る。

 しかし、汐音にも譲れないものがあるらしく、そこだけは譲らないらしい。

 兄として嬉しくも恥ずかしい。


「浩輔君のどこが素晴らしいの。私の兄さんと比べたらゴミよゴミ」


 勝手に人のことをディスるのを止めてくれないだろうか。

 地味に傷つく。


「龍ちゃんも良い人だけど、お兄ちゃんは最高のお兄ちゃんだよ。喧嘩した時も私のことを慰めてくれたし」

「私の兄さんだって慰めてくれたし」

「二人ともストップストップ。聞いていて恥ずかしいから」

「浩輔君は黙っていて」

「お兄ちゃんは黙っていて」


 二人の言い争いがあまりにもこそばゆかったので止めようとした浩輔だったが、二人に猛反発された。


 理不尽過ぎじゃないんだろうか。


 香織はともかく、浩輔のことが好きな汐音にまで邪険に扱われるとは。


 お兄ちゃん、泣いちゃう。


「浩輔君は汐音ちゃんに愛されてるね~」


 一人、蚊帳の外である莉奈が羨ましそうにウンウンと頷いている。

 しかもなぜか羨ましそうだ。


「私の兄さんの方が素敵」

「ううん、いくら香織ちゃんでもそれだけは間違ってる。私のお兄ちゃんの方が凄いよ」

「はぁー、あんな奴のどこが」

「龍ちゃんよりもお兄ちゃんの方がお兄ちゃんとして格好良いの」


 妹たちはどっちの兄が上かで論争している。

 香織は浩輔のことをぼろくそ言うが、龍次は汐音の彼氏なのでさすがに汐音は龍次の悪口を言わなかった。


「なんか良いな~お兄ちゃん。私もお兄ちゃんが欲しかったな」


 その言葉には姉なんかいらないという意味は込められていなかっただろう。

 きっと兄がいたら楽しそうだったな~ぐらいにしか思っていないだろう。


 浩輔も姉や兄、弟がいたらどんな生活だったのか想像する時もある。

 それもそれで楽しいのかもしれない。


 でも今は、妹、汐音がいてくれて良かったと思う。

 しかし由利はそう思わなかったらしい。


「でも莉奈さんにはお姉ちゃんがいるだろ」

「そうそう。私のお姉ちゃんは世界一だよ」


 莉奈には姉がいる。

 莉奈も姉のことを慕っている。


「……呼ばないでよ」

「ん?」


 今まで話に参加して来なかった由利がボソリと呟く。

 浩輔は最初、由利がなにを話しているのか聞き取ることができなかった。


「だったらもうお姉ちゃんと呼ばないでよ。そんなにお兄ちゃんが欲しかったら浩輔君のところに行きなさいよ」


 初めて聞いた由利の悲鳴。

 あまりの大きさと、突然さに浩輔たちはなにも言葉を発することができなかった。


 そしてここから由利の慟哭が始まる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます