第40話 心のダムの決壊

「二人が完全にいなくなったから言えるけどアレは完全にアウトだったよ」

「あっ、やっぱり」


 浩輔は慎重というか臆病なので、二人の姿が完全に校舎の中に消えていったことを確認してから二人の話題を話し始める。

 だって莉奈の言葉は完全に輝夜と咲夜に聞かれていたし、言いわけもひどかった。


「本人の前ではあまりそういうこと言わない方が良いじゃないのかな」


 汐音も汐音で恐ろしいことを言っている。

 つまり、本人がいないところだったら言っても良いと解釈できないこともない。


「だっていきなり後ろから来られたら分からないじゃん」


 確かに二人はいきなり後ろから来たので分からなかったがそういう問題ではないと浩輔は思う。


「でもあの二人は私も苦手だな」


 珍しく由利も誰かに対してマイナス感情を抱いている。


「でしょ、やっぱりあの双子は苦手だよ」


 性懲りもなく、莉奈はまた二人の悪口を言う。


「莉奈さんって誰とも仲良くなれるイメージがあったんだけど違うんだね」

「さすがに誰とでも仲良くできるわけじゃないよ。あたしだって人間だし、そりゃー合う合わないはあるよ」


 誰とでも仲良くしている莉奈にもそういう感情があることを知り、浩輔は驚いた。

 確かに浩輔にもこの人は合いそうとか、合わなさそうとか感じることが多々あるが莉奈もそうらしい。


「もちろん私もだよ。誰とでも仲良くできるわけじゃないよ」


 社交的な汐音もそう言う。

 確かに言われれば誰とでも仲良くできる人なんてそうそういない。


「話は変わるけどあたしと汐音ちゃんが仲良くなったのって同じ双子の妹だからなんだよね」

「そうそう。一年生の頃莉奈ちゃんと同じクラスだったでしょ。伊藤兄妹もいたけど咲夜さんは話しかけにくい雰囲気が纏っていたし」


 言われれば思い出したが、汐音と莉奈が仲良くなったのは結構早かったような気もする。

 一年生の頃、浩輔が気づいた頃にはすでに友達だった印象があった。


「やっぱり話すキッカケは同じ共通点から話し始めるよね」

「うんうん、双子の妹同士だから話も合うんだよね」


 莉奈と汐音はとても仲が良い。

 高校一年生の頃も由利と莉奈ともクラスメイトだったが、話す機会もなかったせいで、高校一年生の頃は一回も話したことはなかった気がする。


 しかし今はどうだろうか。


 普通に学校で会えば挨拶もするし、一緒に帰ったり寄り道だってたまにする。

 これを高校一年生の頃の浩輔に話しても絶対に信じてくれないだろう。


「確かに一年生の頃、伊藤兄妹もいたけど話す機会がなかったな」

「そうそう。あの時から怖かったし」

「怖いっていうか近寄りがたい雰囲気だったかな」

「そうそう。二人で完結してるというか」

「二人がいればなにもいらないって言うか」

「なになに、なんの話」


 二人が伊藤兄妹の話をしていると、また誰かやって来た。

 最初、また伊藤兄妹だと思った莉奈と汐音は激しく体を震え上がらせる。


「どうしたの、そんなに驚いて」

「なんだ香織ちゃんか」

「驚かせないでよ」

「えっ、私が悪いの」


 話しかけてきたのが香織だということに気づいた莉奈と汐音はドッと息を吐く。

 なぜか自分が悪者になった香織は心外そうに喚いているが、莉奈も汐音も無反応だった。


「タイミングが悪かっただけだよ、香織さん」

「そんなの知らないわよ」


 確かに香織からすればそんなタイミングなんて知らないだろう。


「ごめんごめん、香織ちゃん落ち着いて」

「あれ、龍ちゃんは」

「兄さんはいつも遅刻ギリギリよ。っていうか、私より兄さんなの」

「ごめんごめん、香織ちゃん」


 莉奈はほとんど反省していない顔で香織に謝り、汐音は懲りずに龍次のことを気にかけてしまう。

 自分よりも龍次のことを優先したことにキレる香織に、汐音は焦った顔で宥めている。


 汐音は想像しているよりも馬鹿である。


「全く、あなたという人は……」


 香織もため息を吐いているが満更でもない表情だ。

 この前三人で銭湯に行ってきたと汐音が話していた。

 きっと裸の付き合いを経て、お互いさらに親睦を深め合ったのだろう。

 そこには嫉妬に狂う香織の姿も、恋に溺れている汐音の姿もなかった。

 そんな三人を見て浩輔はほのぼのしていた。


 今まで仲の悪かった三人が今は、仲良く話している。


 こんなに素晴らしいことがあるだろうか。いや、ない。


 しかし、そのことを快く思っていなかった人物がいた。


 意外かもしれないが、由利だった。


 しかし、三人の方しか視線を向けていない浩輔はその由利の苦しみに気づいてあげることができなかった。


 そしてついに由利の心のダムが決壊する。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます