第39話 良い意味は万能ではない

 汐音と香織が仲直りをし、なぜか浩輔も香織と仲良くなることができた。

 しかも龍次とも今では普通の先輩後輩の関係に戻り、汐音も龍次とイチャつく日々が続いた。


 いつの間にか莉奈とは話すようになったし、由利とも少しずつ打ち解けることができた。

 こんなに高校生活が充実していた時なんてあっただろうか、いや、ない。


 まさに浩輔はリア充生活を送っていた。


「お兄ちゃん、なんかニヤついてるよ。変な顔」

「変な顔とはなんだ、失礼な」


 いつもの朝。


 今日も浩輔は汐音と一緒に登校している。

 季節はそろそろ冬に向かって寒くなってきているが、日中は日差しがあるのでちょうど過ごしやすい天候である。


「いや、最近友達が増えたな~って思って」

「確かにお兄ちゃんの周りにたくさん人が増えたよね。汐音さんに莉奈ちゃん、香織ちゃんもだよね。なんかお兄ちゃん、女の子ばかりじゃん」


 汐音が急に下世話な笑みを浮かべてくる。


「しょうがないだろ。汐音は女なんだら、汐音のついでに友達になってもらってるんだから女友達が多いのは普通だろう」


 みんな汐音経由で仲良くなったのだ。

 女友達が多くて当然である。

 龍次だって汐音経由だ。


 しかし、汐音は冷たい視線を浩輔に向ける。


 由利だけは浩輔が最初に友達になったのだが、すっかり浩輔はそのことを忘れていた。


「まっ、お兄ちゃんがそれならそれで良いけど」


 なにか引っかかる言い方だったが、追及しても教えてくれないと思い、なにも追及しなかった。


「おっはよー汐音ちゃん」

「おっはよー莉奈ちゃん」


 校門前で漆原姉妹と出会った。

 莉奈と汐音は出会うなり早々、小学生のようなテンションでハイタッチをかわしながら挨拶をする。


 本当に高校生かと疑いたくなるレベルである。


「浩輔君もおっはよー」

「お、おはよう」


 浩輔は莉奈のテンションに付いていくことができず、言葉を詰まらせる。

 しかし莉奈はそんなの関係なしに浩輔とハイタッチを行う。

 今日はこれが流行っているのだろうか。

 莉奈の手は一瞬だったがプ二プ二していて、少し汗ばんでいた。


「おはよう由利さん」

「おはよう汐音さん」


 汐音は莉奈の挨拶とは一変、由利には普通の挨拶を行う。


「おはよう由利さん」

「おはよう浩輔君」


 浩輔もこういう大人しい挨拶の方が気が楽ななので、由利には静かな挨拶を行う。

 由利もそっちの方が嬉しいのか、はにかみながら挨拶を返す。


「お姉ちゃんも浩輔君と仲良くなったよね。男の子が苦手なお姉ちゃんがこんなにも男の子と仲良くなれるなんて思わなかったよ」


 まるで初めて友達ができた子供を褒めるような言い方をする莉奈。

 莉奈の方が妹だが、双子の場合、どちらが先に子宮の中から出たかで姉か妹かが決まるので、姉と妹に差はない。


 浩輔だってそうだ。


 浩輔たちも同じ子宮の中にいて、先に浩輔が出たから兄になったのだ。

 もし、汐音が先に出たら、汐音が姉になり、浩輔が弟になっていただろう。

 そうなったらいろいろと振り回されて大変そうな未来しか見えない。


「そ、そんなことないよ~」


 由利は謙遜する。

 謙遜する由利は美徳だが、謙遜しすぎるのもあまり良い印象はしない。


「そう言えば僕たちと莉奈さんたちって双子だよね」

「うん、そうだよ。それに伊藤兄妹もね」


 一クラスに三組も双子がいるなんて少し異常な気もするがそこは一度置いておく。


「伊藤兄妹ね。私、あまり話したことないんだよね」

「あたしも。なんか不気味って言うか……いつも一緒にいるよね」


 あの友達の多い汐音と莉奈でも伊藤兄妹とはほとんど交流がないらしい。

 しかも莉奈に関しては不気味という印象を抱いている。


「あらあら不気味って失礼ね、莉奈ちゃん」

「あらあら不気味って失礼ね、莉奈ちゃん」


 そこにタイミング良くやって来たのは噂の伊藤姉妹だった。

 輝夜と咲夜とは同じ教室だがほとんど接点がなかった。

 そもそも、こうして話すのも初めてかもしれない。


「ひぐっ」


 莉奈もまさか聞かれていたとは思わなかったのか、引きつった表情を浮かべている。

 由利も引きつった表情を浮かべていたが、由利はこの時なにも発言していないため理由は分からなかった。


「その~良い意味で不気味って言ったの……あはは」


 莉奈は伝家の宝刀『良い意味』を使った。

 これさえ言えば許してくれると思ったのだろう。ダメだしの苦笑いもついている。


「良い意味を言えばプラスの意味になるとは思わないでね」

「良い意味を言えばプラスの意味になるとは思わないでね」

「別にあなたが私たちのことをなんと思うおうとも勝手だわ」

「別にあなたが私たちのことをなんと思うおうとも勝手だわ」

「だって私は私だから」

「私は私だから」


 そう謎のセリフを残していって輝夜と咲夜は昇降口に消えていった。

 二人の姿が見えなくなると、莉奈は今まで呼吸を止めていたのか安堵のため息を吐き出す。


「ヤバかった~マジでビビった~」


 さすがに莉奈もあれは失言だったと思ったのだろう。

 確かに、浩輔もあれを言われれば傷つく。


「輝夜さんと咲夜さんってなんかつかみどころがないんだよね。私たちと莉奈ちゃんたちとは違うっていうか」

「そうそう。なんか双子と言うよりかは一人って感じ」


 汐音も莉奈も、伊藤兄妹のことを把握できていないのか、不思議そうな表情を浮かべていた。

 確かに浩輔も二人と同じ雰囲気を感じた。


 あの二人はなにか怖い。

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