第36話 香織の呼び出し

 その後は結構穏やかな日々が続いた。


 あれから汐音と香織の会話は増えたような気もする。

 汐音と香織は前から同じクラスだったが、喧嘩する前までは挨拶もしないような関係だったが喧嘩をし、仲直りしてからと言うものの、挨拶をしたりお昼を一緒に取るような仲まで進展した。


 これは、かなりの進展である。


 そこに莉奈も加わり、仲良し三人組が形成されつつあった。

 しかし、由利だけはなかなかその輪に入っていけず、莉奈が誘うものの、断り続けていた。

 浩輔もそのことに気づいてはいたが、女社会に口を出すほど浩輔も愚かではない。

 だから浩輔はそのまま静観していた。


「浩輔君、ちょっと良いかしら」


 ある昼休み。

 浩輔にとっては意外な人物、香織が浩輔に話しかけてきた。

 汐音と香織は確かに仲良くなったが、浩輔との関係は、未だにただのクラスメイト止まりだった。


「どうかしたの」


 浩輔も動揺を隠すことができずに声が震えている。

 チラッと汐音の方を見ると、なぜか香織を応援して入り素振りが見えた。

 きっと、これも汐音の入れ知恵だろう。

 しかも莉奈まで応援している。


「……うるさい」


 香織は二人に子ども扱いされているのが恥ずかしいのか、顔を真っ赤にして小さな声で抗議している。

 そんな香織を見ていると年相応で可愛らしい。

 由利はなにも知らされていないのか、恐る恐る浩輔たちを静観している。


「浩輔君はお昼休みとか暇なの」


 香織のストレートな言葉。

 確かに暇だが、他人に言われると心に突き刺さるものがある。


「まぁ~暇と言えば暇だな」


 ボッチにもボッチになりプライドがある。

 明らかに暇だけど、今日はたまたま暇だということを装いたい。

 浩輔もなかなか気難しいボッチである。


「なら、少しお話がしたいんだけど、良いかしら」

「……別に大丈夫だよ」


 香織は心配そうに恐る恐る浩輔に尋ねる。

 その後ろで汐音が激励を飛ばしている。

 あれは逆効果だろうと思いつつも、そんな汐音が可愛いと思ってしまうダメな兄だった。

 特に断る理由もないので、浩輔は香織の提案を受ける。


「……良かった」


 そこまで安心することだろうか。

 そこまで嬉しそうな表情をされると、逆に戸惑ってしまう。


「ここでは話しにくいことなので、こっちについてきてもらっても良いかしら」

「うん、分かった」


 ここでは話しにくいことって一体なんなんだろう。

 浩輔には全く想像がつかなかった。


「よし、まず第一関門突破だね」

「頑張れ香織ちゃん」


 後ろの野次馬は香織のことを応援している。

 いつの間に莉奈と香織が仲良くなっていたのか、莉奈は香織のことを下の名前で呼んでいる。


「香織ちゃん変わったね」

「そうだね。香織ちゃんは変わったね」

「前の刺々しさがなくなったね」

「前の刺々しい香織ちゃんも好きだったけど、デレデレの香織ちゃんも可愛いね」

「まさに生生流転だよね」

「この世で変わらないものはなにもないね」

「でも私たちの思いだけは変わらないよ」

「そうね。私たちの思いは不変よ」

「でも私たちも変わるのかな」

「私たちも変わるのかな」

「それは神のみ知ること」

「それは神のみ知ること」


 香織と仲の良い伊藤兄妹がなにか話し合っている。

 輝夜も咲夜もこのクラスでは有名な双子である。


 髪の毛以外、すべて一緒。


 もし、髪の毛を同じ色に染めれ登校したら誰一人見分けが付かないだろう。

 それぐらい、二人の容姿は似ていた。

 そして、浩輔はこの二人のことを不気味だと思っていた。


 いつも二人一緒にいる双子。


 二人が別々に行動している姿を浩輔は見たことがない。

 そして話す内容も声音も一緒のため、変な感じがする。

 そんな伊藤兄妹は置いといて、浩輔は香織についていく。


 由利はなぜか寂しそうな顔をしていたが、浩輔の関心は伊藤兄妹に移っていたのでその表情に気づくことはなかった。

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