第32話 香織はどこ?

 最近汐音ばかりかまって香織とは全然かまってあげられていなかったと龍次は反省する。

 そのせいで汐音も香織も傷ついてしまった。


 浩輔や優しい後輩だ。


 こんなにも彼女、自分の妹を傷つけた男を責めないでいてくれる。

 その優しさに一体どれほど救われてきただろう。

 汐音のことは浩輔たちに任せて、自分は香織をどうにかしなければならない。


 そのためにはまず香織の居場所を特定しなければならない。

 下駄箱で靴を確認すると学校内にいることが分かった。

 龍次は急ぎながら学校内を探す。


「木村君、廊下は走らない」

「あぁ」


 注意されたので思わず、威嚇の声が出てしまった。


「先生に向かってその態度はなんですか」


 規則に口うるさい真希が龍次に吠える。


「す、すみません」


 今は言い争っている暇などない龍次は適当に謝る。

 素直に謝ったのが意外だったのか、真希も拍子抜けする。


「分かれば良いの」


 真希もホッとしたのか、声から安堵の声がにじみ出ている。


「高坂先生、香織のこと見なかった」

「木村君の妹……ううん、見なかった」

「そっか、ありがと」

「だからもっと先生を敬いなさい。そして廊下は走るな」


 香織を知らないならこれ以上話すのは時間の浪費だ。

 龍次はさっき怒られたことも忘れ、再び廊下を走り出す。

 真希がきーきー騒いでいるが、うるさいので無視した。


 保健室、図書室、化学室、教室、トイレ、使われていない教室、屋上。


 全て探した。


 しかし、どこにも香織はいなかった。


「もしかしてすれ違ったのか」


 龍次は最悪なことを考えてしまう。

 どっかで龍次と香織がすれ違って、香織がもう校内にいなかったら骨折り損のくたびれ儲けだ。


「もう一回靴を確認してくるか」


 龍次は一度昇降口に戻ろうとした時、とても似ている双子に会った。


「あなたが香織ちゃんのお兄ちゃん」

「あなたが香織ちゃんのお兄ちゃん」

「なんだこの双子」


 龍次はこの双子に恐怖を感じた。

 顔も声も体格も同じ。

 唯一違うのは髪の色だけである。


「香織ちゃんなら屋上にいるよ」

「給水塔の後ろにいるよ」


 まるで一人の人間が話しているかのような声。


「お前らは一体なんなんだ」

「私は伊藤咲夜」

「私は伊藤輝夜」

「私は輝夜のお兄ちゃん」

「私は咲夜の妹」

「そして香織ちゃんの友達」

「そして香織ちゃんの友達」


 龍次が双子の正体を聞くと、ほぼ同じことを口にする。

 声紋が同じせいか、聞いていると変な感じがする。

 正直言ってこの双子が真実を話している根拠はどこにもない。

 でも、給水塔の後ろまでは見ていなかったからそこいる可能性を捨てきれない。


「というかなぜ俺が香織の兄だと知っている」


 龍次はこの双子に面識がなかった。

 龍次は友達が少ない。


 そのため、人の名前も顔も覚えることは少ないが、最低でもこんな双子に会ったのは今日が初めてだ。


「香織ちゃんが話してくれた」

「香織ちゃんが話してくれた」

「香織ちゃんはお兄ちゃんのことが大好き」

「香織ちゃんからお兄ちゃんの愛が伝わってくる」

「でも汐音さんは嫌い」

「汐音さんの良いことは言わない」

「私たちが羨ましいって」

「私たちが羨ましいって」

「なんでかな」

「なんでかな」

「とにかく香織がお前たちに話したんだな。ありがとう、行ってみる」


 これ以上この双子を相手にしたくなかったので、龍次は会話を無理矢理切り上げる。

 正直言って口うるさい真希の方がまだマシだ。

 この双子からは異質なものが伝わってくる。


「木村先輩逃げちゃった」

「逃げちゃった」

「兄妹なのに全然似てない」

「兄妹なのに全然似てない」

「私たちはとても似てる」

「私たちはとても似てる」

「大好き、輝夜」

「大好き、咲夜」


 二人は廊下のど真ん中で唇を重ねる。

 今日のキスは舌と舌をからめ合う、ディープなキスだった。

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