第31話 もう大丈夫

「それで明日は学校来れそうなの」

「そうだね。いつまでも家に引きこもっているわけにもいかないし。明日は学校に行くよ」


 自然な流れで本題を聞き出す莉奈に、特に嫌がる素振りもせず答える汐音。

 莉奈に友達が多いのはこういうのが理由なのだろう。


 莉奈は自然に他人のパーソナルスペースに入っていく。

 それが不愉快ではなく、むしろ自然すぎて浩輔も自分のパーソナルスペースに入られたことに気づかないくらい自然なのである。


「大丈夫。もし香織さんがなにか言ってきたらあたしが守ってあげるから」

「ありがとう、莉奈ちゃん」


 莉奈は可愛らしくシャドーボクシングのポーズを取り、それに苦笑いをしつつも嬉しそうに汐音ははにかむ。


「ゼリーごちそうさま」

「いいえ。こっちこそ急に来たいって言ってゴメンね」

「ううん。莉奈ちゃんや由利さんが来てくれて良かった。少しだけ胸が軽くなったよ」


 汐音は莉奈だけではなく由利のことも忘れずに礼を言う。

 そういう細かな気遣いができるところが、汐音の美点なのだろう。

 だから龍次も汐音に惹かれたのだろう。


「僕も同じ教室にいるから、なにかあったら頼れよ」

「うん、ありがとう、お兄ちゃん」


 莉奈だけに格好良いところを取られたくなかった浩輔は、兄として妹を守りたいということを汐音に伝える。

 汐音はそれが嬉しかったのか、クスクスと笑っている。


「わ、私も……なんの役にも立たないかもしれないけど頑張るね」


 これが由利の精一杯なのだろう。


「ありがとう、由利さん」


 汐音はありがたそうに由利の厚意を受け取る。


「本当は木村先輩も来たがっていたけど、妹の木村さんのことが心配で行けないって言ってゴメンって言っていたよ」


「そうなんだ。別にそれで大丈夫だよ。龍ちゃんは香織さんのお兄ちゃんなんだから私よりも香織さんのこと優先して」

「木村先輩はマジで申し訳なさそうだった」

「うふふ、龍ちゃんらしい」


 一応龍次の株を下げないように、言いわけをしたがそれは必要がなかったようだ。

 汐音はそのことも分かっていたのか、おかしそうにクスクス笑っている。

 きっと彼女の汐音からすればきっと龍次に来てほしかっただろう。

 でも龍次は汐音の彼氏であると同時に香織の兄でもある。

 だから汐音は香織に譲ったのだろう。


「それに私にはお兄ちゃんがいるから寂しくないよ」


 汐音はそう言うと、浩輔を抱きしめる。

 本当は寂しいはずなのに、平気を装っている汐音。

 そんな汐音が愛おしくてたまらなかった。


「いつも私が龍ちゃんを独り占めしてるから香織さんは焼きもちを焼いたんだよ」


 汐音は香織のことを理解しているらしい。

 本当にできた妹である。


「汐音は偉いな」


 浩輔は優しく汐音を抱きしめる。


「……そんなことないよ。私はエッチで独占欲が強いだけ。全然偉くないよ」

「それは確かに」

「もうー、そこは否定してよ」


 思わず頷いてしまったが、そこは妹的に否定してほしかったらしい。

 でもエッチで独占欲が強いのは事実だ。

 汐音は一瞬ムスッとした顔をしていたが、それが面白かったのかクスクス笑い始めた。

 それにつられて浩輔も笑いが漏れる。


「浩輔君と汐音ちゃんって仲が良い兄妹だよね」

「そうだね」

「異性の兄妹ってどんな感じなんだろ」

「どうなんだろ。私たちとは違うのかな」

「お姉ちゃんのことは大好きだけどお姉ちゃんがお兄ちゃんだったらどうだったんだろ」

「逆に、莉奈が弟かもしれないよ」

「あたしが弟か……あたしが弟だったら、もっとベタベタするかも」

「私もお兄ちゃんだったら、もっと甘やかすかも」

「でも、今のお姉ちゃんがあたしは好きだな」

「わ、私も」


 浩輔と汐音の兄妹愛に感化されたのか、漆原姉妹も甘い雰囲気を醸し出しながら抱き合っている。


「僕たちも漆原姉妹のように同性だったらどうだったのかな」

「お兄ちゃんがお姉ちゃんか。それはそれでアリだよ」

「汐音が弟か。さすがに弟だったら抱き合うことはしないかな」

「確かに。男同士だったら恥ずかしいね」

「だから今のままが一番良いね」

「そうだね。大好きだよお兄ちゃん」

「僕も大好きだよ、汐音」

「いつも守ってくれてありがとう」

「いつもそばにいてくれてありがとう」


 桐山兄妹も漆原姉妹に感化され、お互いの愛を確かめ合う。

 もし汐音が弟だったら。


 そんなこと言わなくても良い。


 汐音が男だろうが女だろうが、男の娘だろうが。双子の弟、妹だったら絶対に好きでいられる自信がある。

 だって、汐音は世界一の妹だからだ。


 汐音の笑顔が浩輔の腕の中で咲き誇る。

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