第30話 いざお見舞いへ

 校門を抜けて浩輔たちは桐山家に向かう。

 由利と莉奈と一緒に帰りながらそう言えば、今まで誰かと一緒に帰ってきたことがなかったなと思い出す。


 いつも一人で帰る道。


 朝は汐音と一緒だが、妹と友達とでは全然違う。


「……僕、友達と一緒に帰ってる」

「どうしたの浩輔君。なんか涙目だよ」


 機敏に浩輔の変化に気づいた莉奈は心配そうに浩輔の顔を覗き込む。

 さすがに、初めて友達と帰って来て嬉し涙を流していると思われたくなかったので、適当に誤魔化した。


「目に……ゴミが」

「受ける」


 さすがに下手な言いわけだったせいか、莉奈に一笑される。


「ここが僕の家だよ」

「へぇ~初めて見た」

「なんか緊張する」


 浩輔の家に着き、莉奈と由利に自分の家を紹介すると、莉奈は無難な感想を漏らし、由利はあまり友達の家に行ったことがないのか、緊張している。

 その後、自分の家なのでインターホンとか鳴らすことなくドアを開ける。


「お兄ちゃん、莉奈ちゃん、由利さんおかえりなさい」


 ドアを開ける音が聞こえたのか、ピンクのパジャマ姿のまま汐音が出迎えに来てくれた。

 朝よりも顔色も良く、歩けるぐらいまで体力は回復したようだった。


「汐音ちゃん、心配したんだよ」


 莉奈は玄関に入るなり、汐音の元気な姿を見て嬉しさや安堵の気持ちが抑えきれなかったのか、靴を脱ぎ捨てそのまま汐音に抱きつく。


「ゴメンね莉奈ちゃん」


 汐音も莉奈に心配かけたことが心苦しかったのか。優しくハグをし莉奈を宥める。


「お、お邪魔します」


 引っ込み思案の由利は汐音にハグすることはせずに、遠慮がちに桐山家の中に入る。


「熱とかないの」

「うん、熱はもうないかな」

「でも元気そうで良かったよ。これ、お見舞いね」

「ありがとう莉奈ちゃん」


 莉奈と汐音はいつものようにとりとめのない会話をしながら、相手の状況を分析しお見舞い品であるゼリーを汐音に渡した。


 ちなみにこのゼリーはコンビニで買ったフルーツゼリーだ。


「みんな、まずは上がってくれ」


 玄関で話すのも由利や莉奈に失礼だと思い、浩輔は中に入るように促す。

 三人とも浩輔の言葉でそれに気づいたのか、汐音がリビングに案内する。


「僕はスプーンとお茶の用意をするね」

「うん、お願い、お兄ちゃん」


 一応汐音は病人なので、お客様をもてなす準備は浩輔がすることにした。

 浩輔は台所からお茶とスプーンを取り出し、リビングにいる汐音たちに持っていく。


「ありがとう、お兄ちゃん」

「ありがとう、浩輔君」

「……ありがとうございます」


 三者三葉、浩輔に礼を述べて袋からゼリーを取り出す。


「汐音ちゃんから選んで良いよ」

「私からで良いの」

「だって汐音ちゃんは今日の主役だもん」


 汐音と莉奈はキャッキャと騒ぎながら、ゼリーを決める。

 汐音がリンゴゼリーを選ぶと、次は浩輔に渡される。


「僕は最後で良いよ。莉奈さんや由利さんで選んで」

「そんなことできないよ。あたしたちは桐山家にお邪魔してるんわけだし。だから次は浩輔君だよ」


 莉奈は気配りをするのが上手い。

 だから、桐山家の浩輔に選ばせるのだろう。


「それじゃーお言葉に甘えて」


 ここで譲り合っても時間の浪費なので、浩輔は莉奈のお言葉に甘えることにした。

 その結果、浩輔はミカンゼリー、由利はラフランスゼリー、莉奈はモモゼリーに決まった。


「う~ん、冷たくておいしい」

「でしょ。それに疲れた時は甘いものが一番だよね」

「分かる分かる」


 ゼリーを食べながら話が盛り上がる汐音と莉奈。

 一方、口下手な浩輔と由利は黙々とゼリーを食べている。

 汐音と莉奈は社交的な性格をしている。


 だから次々と会話が続くのだろう。


 でも浩輔や由利は違う。


 二人とも内向的で、引っ込み思案の性格のせいで、なかなか話が弾まないし盛り上がらない。


「このゼリーおいしいね」

「うん、そうだね」

「……」

「……」


 会話終了。全然繋がらないし弾まない。

 一体どうしたら汐音や莉奈のよう自然に会話ができ、盛り上がることができるのだろう。

 謎だ。


「……なんか汐音さんと莉奈の方が双子みたいだよね」

「……お互い社交的なところは似てるよな」

「…………私は、あんな風にはなれない」

「なんか言った」

「ううん、なんでもないよ」


 こんなことを同意するのは失礼かもしれないが、確かに汐音と莉奈の方が性格的には似ているかもしれない。

 お互い社交的でとても仲が良くまるで姉妹のようだ。

 そんなことを由利は気にしているのだろうか。


 最近、由利の沈んだ顔が目立つ。


 だが、浩輔は汐音のことだけ精一杯であり、由利まで気を回すことができなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます