第27話 戦争

 同じクラスにいる以上、無視し続けることなんてできない。


「さっきからなんなの。睨んできて」

「そっちこそ、よくふてぶてしく教室にいられるな」


 三時間目と四時間目の間の休み時間。

 ついに、香織と浩輔はぶつかってしまった。

 急に始まった喧嘩に、クラスは静まり返る。


 三時間目と四時間目というお腹が空いた時間。

 そのせいもあって、香織も浩輔も理性で怒りを抑えることができず喧嘩を始めてしまった。


「なにに浩輔君が怒っているのか分からないけど、八つ当たりは止めてくれない」

「よくそんな嘘ばかりペラペラしゃべるな」


 余裕そうな表情を見せるものの、体が震えている香織。

 浩輔は怒りに任せて香織の胸ぐらをつかみ、香織を立ち上がらせる。


「……どうしよう」

「ちょっと二人とも一旦落ち着いて。まず浩輔君はその手を離そう」


 由利はただ怯えることしかできず、逆に莉奈は二人の仲裁に入る。


「これは僕と木村さんの問題だ」

「そうよ。部外者は出しゃばらないで」


 莉奈が仲裁に入るのも関わらずに、浩輔も香織も莉奈を邪険に扱う。


「そうかもしれないけど、その手は離して。暴力はダメだよ」


 しかし二人の威圧にも屈せず、莉奈は毅然とした態度で二人を対応する。

 そこまで言われたら離すしかなく、浩輔は香織の胸ぐらを離す。

 その瞬間、香織は安堵した表情を一瞬だけ浮かべる。


「まずは二人はどうして喧嘩してるの」

 当事者は怒りによって冷静さを失っているので、こういう時は逆に第三者の方が冷静でいる場合が多い。


 莉奈は冷静に二人が喧嘩している原因を尋ねる。


「こいつが、汐音を傷つけたんだよ」

「こいつの妹が私の兄さんを奪ったのよ」

「なるほど。もう少し詳しく聞かせて」


 浩輔と香織はお互いがお互いを悪いと怒鳴る。

 莉奈はその圧力に屈することなく、冷静に状況を判断する。


「木村さんのせいで、昨日汐音は雨に濡れながら帰ってきたんだ。しかもかなり憔悴しきって。そして木村さんに叩かれたことも言っていた」

「本当なの、香織さん」

「……本当よ」

「ほらっ」

「浩輔君も一旦落ち着いて。つまり、今日汐音ちゃんが休んでいるのは雨に濡れて風邪を引いたからなの」

「違う。お前がいるから汐音は休んだんだ。同じクラスに香織がいるからな」


 浩輔は教室で全てを暴露し叫んだ。

 さすがにそこまで汐音を傷つけるつもりはなかったのか、香織は驚いた表情をしている。


「……あの汐音ちゃんが学校を休むなんて……よっぽど傷ついているのね」


 莉奈と汐音は仲が良い。

 だから汐音が香織と会いたくないという理由だけに学校を休んだことに驚いているのだ。


「……別に私はそこまで……」

「それはお前の都合だろ。言葉の意味はな、発した側ではなく全て受け取り側決めるんだよ。お前のせいで汐音はずっと泣いていたんだからな」


 香織もそこまで汐音が傷ついているとは思わなかったのだろう。

 信じられないというような目で浩輔のことを見ていた。


 浩輔はその顔が気に食わなかった。


 さんざん汐音を傷つけてのうのうと学校に通っている香織が。


「今の話を聞くだけだと香織さんが汐音ちゃんを昨日、叩いて傷つけたんだよね」

「……確かにそうだけど、汐音さんだって悪いんだよ。私の兄さんを奪うから。汐音さんと付き合ってから兄さんは勉強もしなくなったし、私の相手もしてくれなくなったし……全部汐音さんが悪いのよ」


 香織が初めて浩輔の前で本音を漏らす。

 それを聞いた浩輔は怒りで頭が真っ白になった。


 そんな自分勝手な理由のせいで、汐音を傷つけたのかこの女は。


 浩輔の体は怒りに支配され、勝手に体が動く。


「ちょっと待って浩輔君。確かに香織さんが汐音ちゃんを叩いて傷つけたことはダメなことだけど、それで叩くのもダメだよ」


 そんな浩輔を押さえようと莉奈は浩輔を羽交い絞めにする。

 莉奈の胸はかなり巨乳で柔らかく気持ちが良かったが、怒っている浩輔はそこまで頭が回らなかった。


「……そうよ……全部……私が悪いのよ」

「どうしたの香織さん」

「私が全部悪いんでしょ。この泥棒。私の兄さんを返して」


 香織も堪忍袋の緒が切れたのか、ヒステリックに叫ぶと鞄を持って教室を飛び出していってしまった。


「香織さん」

 莉奈は香織を呼び止めようとするものの、そのまま香織が帰ってくることはなかった。


「……ゴメン莉奈さん」

「ううんあたしこそ、なにも知らないのに偉そうなことばかり言ってゴメン」


 少し冷静になった浩輔は、迷惑をかけてしまった莉奈に謝る。

 莉奈も部外者なのに口を出したのが悪いと思ったのか浩輔に謝罪する。


 その後短い休み時間は終わる。


 教室はなにごともなかったかのように授業が始まる。


「……私、今回もなにもできなかった」


 由利は一人、なにもできなかった自分を責めていた。

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