第19話 木村香織

放課後という時間帯は学生が一番開放的になる時間帯である。

 ある生徒は部活で青春の汗を流し、ある生徒は友達と有意義な時間を過ごす。

 そして浩輔の妹、汐音は性にまみれた汗を流す。


「それじゃーお兄ちゃん。今日も龍ちゃんの家に行ってくるから」

「木村先輩に迷惑かけるなよ」

「じょーぶじょーぶ。今日は八時前には帰ってくるから」


 今日も笑顔で汐音は教室を出て行く。

 兄としてはいろいろ心配だが、相手が龍次なら心配はいらないだろう。

 むしろ、龍次が逆に犯されていないかの方が心配である。


 そんな汐音を汚物を見るような目で見ているのが香織である。

 龍次の妹とはいえ、浩輔と香織の接点はない。


「お姉ちゃん、一緒に帰ろう」

「今日は良いの」

「なに言ってんの。ホントはお姉ちゃんと一緒に帰りたいんだけどお姉ちゃんが遠慮するからでしょ」

「だって私がいたら空気を悪くしちゃうもん」

「そんなことないよ。あっ、浩輔君も一緒に帰る?お姉ちゃんと最近仲が良いし」


 姉の迎えにやって来た莉奈はかなりハイテンションだ。

 莉奈は友達が多いため毎日違う友達と一緒に帰っている。

 そんなに交友関係が広いと、女子社会ではハブられそうな気もするがそこは莉奈のコミュニケーション能力や人柄のおかげか、毎日楽しそうに過ごしている。


 妹の汐音は龍次のことしか目にないため、汐音と一緒に下校したのはもう記憶にない。

 その代わり朝は同じなので毎日一緒に登校しているが。


「そうだね、浩輔君と莉奈と一緒に帰るもの楽しそうだし」

「そうそう。もうーお姉ちゃんもそんなに浩輔君のことが好きなら付き合っちゃえば良いのに」

「「……えっ……え―――」」


 莉奈の爆弾発言に浩輔と由利が固まった後、お互い大声を上げた。

 そのせいで、教室に残っていた生徒に奇妙な目で見られたがしょうがない。

 爆弾発言をした莉奈は『えっ、違うの』というような表情で首を傾げている。


「ち、違うよ。私浩輔君のことなんて好きじゃないよ」


 由利は慌てて否定するものの、女の子に素で好きじゃないと言われるのは結構堪える。


 なんでだろう。涙が出るぐらい胸が痛い。


「お姉ちゃん、浩輔君が落ち込んでるよ」


 胸を押さえながら痛みを堪えていれば誰だって分かる。


「ち、違うの。浩輔君のことは好きだけど、そういう意味で言ったんじゃないの」


 由利はオロオロしながら、浩輔の背中をさする。

 分かってはいたが、面と向かって好きじゃないという言葉の威力は凄まじかった。


「まっ、お姉ちゃんの言いたいことは分かるけど」


 妹の莉奈は姉の言い間違いに呆れていた。


「ごめんね、浩輔君」

「……僕は大丈夫だから」


 申し訳なさそうに謝る由利に、できるだけ気丈に振る舞う浩輔。


「それで浩輔君って放課後の予定とかある?」


 浩輔が落ち着いたタイミングを見計らって、莉奈が浩輔に話しかけてくる。

 自分で言って悲しくなるが、放課後の予定なんてあるわけがない。


 浩輔には友達が少ないのだ。


 このまま家に帰って勉強してダラダラしているか、適当に街をぶらつくしか予定がない。


「特に―――」

「ちょっと浩輔君。ちょっと良いかしら」


 特に予定がなかった浩輔はそれを答えようとした時、意外な人物に話しかけられた。


「……木村さん」


 話しかけてきた人物は龍次の妹の香織だった。

 もちろん、浩輔とはただのクラスメイトという関係でしかない。


「もしかして予定でもあった?」


 莉奈は二人に気を利かせたのか、少しだけ後ろに下がった。

 由利はこの展開についていけずに右往左往している。


「もしかして、莉奈さんとの予定でもあった?」


 香織は察したのか、莉奈の方に視線を向ける。


 莉奈は空気を読める女の子だ。


 すぐに二人の空気を察し、愛想笑いを浮かべる。


「ううん、特にないよ。それじゃーお姉ちゃん、一緒に帰ろうか」

「えっ、……うん」


 この場は離脱した方が良いと判断した莉奈は由利を連れて教室の外に出て行く。

 一方察しが悪い由利はなぜ、浩輔を諦めたのか分からず、無理矢理莉奈に連れていかれてしまった。

 これが友達の多い莉奈と友達が少ない由利の差である。


「怖いね、香織ちゃん」

「そうだね、怖いね香織ちゃん」

「やっぱり龍次先輩の妹だよね」

「やっぱり龍次先輩の妹だよね」

「浩輔君をどうするのかな」

「どうするのかな」

「気になるね輝夜」

「気になるね咲夜」


 クラスで有名な双子の兄妹、咲夜と輝夜が浩輔たちを見て話し合っている。

 普通の大きさで話しているため、こっちまで筒抜けである。


「ここだと人の目もあるから一緒に屋上に行ってくれない」

「まぁー良いけど」


 人の目を気にしているのか、それともここでは話せない話の内容なのか高圧的に頼んでくる香織。

 香織のせいで放課後の予定はなくなってしまったため、断る理由がなくなってしまった。

 ここで断ると面倒くさそうなので、浩輔は渋々香織の言うことに従った。

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