第18話 伊藤兄妹

 いつから兄はあんなに変わってしまったのだろう。

 小学校の頃は強くて優しい兄だった。

 中学校から兄は不良とつるむようになり、どんどん素行が悪くなった。


 そして高校では孤立し、一人になっていった。

 香織との仲も中学校の頃から悪くなっていった。

 小学生の頃の優しかった兄の面影はない。

 高校生になり、そして彼女ができた。


 女ができるたらまた昔のような優しい兄に戻ると思った。


 でも、兄は彼女ばかりかまって、妹には全くかまってくれなかった。


 それが一番モヤモヤする。


 あの時も妹の自分ではなく、彼女の汐音のために怒った。

 香織は大切な兄を奪われてしまったのだ。




 昼休み、教室に戻ると自分の席に戻る。

 クラスの窓側の席で、汐音は楽しそうに友人の莉奈たちと談笑している。

 友達も多く、勉強しているわけでもないのに頭が良い。


 しかも彼氏持ちである。


 まさに勝ち組の女子高生である。


「どうしたの香織ちゃん。頬赤く腫れてるよ」

「どうしたの香織ちゃん。頬赤く腫れてるよ」

「もしかして誰かに殴れたの」

「痛そう」


 香織の頬が赤く腫れていることに気づき心配してくれたのか、双子の兄妹、伊藤咲夜と輝夜が心配そうに顔を覗いてきた。


 このクラスには双子が多い。

 伊藤咲夜は男の娘の兄で、伊藤輝夜は妹である。

 そしてこの二人はまるで一卵性双生児のように似ている。


 身長百六十前半と同じ身長をしている。

 ぱっちりした目にプルッと張りのある頬。

 同じ女性として美しいまつげ。

 胸も程よく膨らんでおり、Cカップ。

 そんな姿形が似ている二人だが、決定的に違うところが一つある。

 それは髪の色だ。

 兄の咲夜はまるで夕日のように美しいプラチナブロンドで、逆に妹の輝夜は新雪のように綺麗なシルバーである。


 長さは二人とも同じロングヘアーなのだが、唯一髪の色だけが違う。


 しかし、二人が髪を染めたりウィックを付けたりしたら正直言って分からなくなってしまう。

 それは友達の香織でもそうだ。

 ホクロの位置が違うというような分かり易い目印などはない。


「大丈夫よ。ちょっとした兄妹喧嘩よ」


 香織は殴られた頬を見られたくなかったので、左手で殴られた左頬を隠した。


「兄妹喧嘩?私たち兄妹喧嘩したことないよ」

「兄妹喧嘩ってなに?兄妹同士で喧嘩するの?」


 兄妹同士で喧嘩をしていることに驚いている咲夜と輝夜。


「私たち一度も輝夜と喧嘩したことないよ」

「私たち一度も咲夜と喧嘩したことないよ」


 今までの会話を聞いても分かる通り、この二人はとにかく仲が良い。

 本人たちも言っているがこの二人が別々に行動しているところは、滅多に見たことがない。

 トイレするタイミングも同じだし、食べる料理も同じである。

 しかもテストの点数も同じである。

 ここまで来ると少し気持ちが悪いと感じてしまう人もいるだろう。


「確かに咲夜と輝夜は仲が良さそうよね」


 香織は羨ましそうにため息を吐く。

 香織も昔は龍次と仲が良かった。

 でも今はお互い目が合うたび、すれ違うたびに喧嘩や皮肉、悪口が出てしまう。


 それも全部汐音のせいだ。


 香織の大切な兄を奪った汐音が悪い。

 香織が汐音のことを睨みつけると、汐音と目が合う。

 香織は気まずいくなり、視線を逸らす。汐音は悲しそうな目で視線を逸らした。


「どうしたの汐音ちゃん」

「ううん、なんでもない」

「確か今の人って汐音ちゃんの彼氏の妹だよね。仲が悪いの」

「ううん、そんなことないと思うけど……」

「でもさっき、汐音ちゃんのこと睨んでたよ」

「あははは……」


 莉奈は怪訝そうに香織を見て、汐音は彼氏の妹だから仲良くしたいのか、曖昧に笑っている。

 香織は汐音と仲良くする気はさらさらなかった。

 兄の彼女で同じクラスだが、それ以上でもそれ以下の関係でもない。


「私と輝夜はすっごく仲良しだよ」

「私と咲夜はすっごく仲良しだよ」

「ねー」

「ねー」


 二人は顔の近くでお互いの手を絡ませながら声をハモらせる。

 そんな二人の仲良さげな顔を見ると、心が痛むのはなぜだろう。

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