第15話 抜き打ちテスト

 抜き打ちテストというものは予告なくいきなり実施されるから抜き打ちテストである。


「今日は抜き打ちテストを実施します」


 四時間目の数学の時間。

 挨拶をして座るなり悪魔の宣言が聞こえた。


「横暴だ」

「俺、勉強してないんですけど」

「ヤバいよヤバいよ」


 生徒の反応は案の定、悲観的なものが多い。


「テストか。ラッキー」

「テストって燃えるよね」


一部、莉奈や汐音のようにテスト好きの生徒もいる。

 由利は莉奈と違い抜き打ちテストと言われた瞬間、顔色が悪くなる。


「毎日予習復習していたらこれぐらい六割は取れる。静かにしろ」


 数学の先生、高坂真希が生徒たちを一括し黙らせる。

 高坂真希は今年就任してきた新任の先生で男の娘だった。


男の娘というのは生物学的には雄だが見た目は完全に女の子にしか見えない人を男の娘と呼ぶ。

 その容姿はもちろんのこと、声も女性のようにハスキーであり乳房も女性のように膨らむ。

 理由は弱男性ホルモンと呼ばれるテストステロンが過剰に酵素の働きを受けセストラジオールという女性ホルモンが大量に作られてしまうからである。


 身長百五十あるかないかでかなり小さい。

 それと反比例してストイックな性格をしており、新任の先生にも関わらずに恐れられている先生でもある。

 黒髪のロングの姫カットで黙っていれば高嶺の花なのだが、その本性を知っている生徒たちは誰もからかうことをしない。いや、できない。

 鋭く吊り上がった目はまるでこの教室に親の仇でもいるかのようだった。

 胸は程よくCカップで。愛想が良くなったらもっと生徒からも人気が出るだろう。

 まっ、人気を得るために先生をやっているわけではないが。

 その後、授業は先生が絶対なのでいくら生徒が文句を言ってもテストは行われた。


 その結果はこうだった。


「今日のテストで満点は莉奈と汐音と木村の三人だけだ。ちなみに五十五以下の生徒は勉強しないと次の中間テストで痛い目を見るから気を付けるように」


 抜き打ちテストをして採点と解説が行われて授業は終了する。

 四時間目の一番腹が減った時間帯。

 頭に糖分が回らなかったせいで、浩輔は四十五点しか取れなかった。


 もし真希の言う通りなら、次の中間テストはヤバい。


「それにしてもいきなりテストなんてひでーよな」

「そうそう。今日テスト行うって分かっていたら勉強して来たのに」

「あれは絶対にモテないよな。絶対最後は孤独死」

「あはは、可哀そう」


 抜き打ちテストを実施されてストレスがたまっていたのか、教室中真希の悪口が蔓延していた。

 浩輔も抜き打ちテストは嫌だったが、だからと言って真希の人格までは否定していない。

 真希の悪口を言っているクラスメイトは不愉快だったが、クラスメイトからの報復が怖くてなにも言えなかった。


「その話止めてもらえる。不愉快なんだけど」

「そうそう。テストで良い点が取れなかったからって先生の悪口はどうかと思うよ」


 クラス最底辺の浩輔にはできないが、クラスカーストトップの汐音と莉奈は別だ。

 汐音も莉奈も頭が良い。

 でもそれ以上に間違ったことは間違っていると言える勇気は素晴らしい。

 さすがに汐音と莉奈に注意されたら歯向かう生徒はいない。

 それが自分が間違っていることならなおさらである。


「もうー、テストで良い点が取れなかったぐらいで先生の悪口なんて幼稚すぎる」

「そうそう。授業聞いてれば百点ぐらい取れるのにね」

「ねー」


 浩輔の妹と由利の妹はいわゆる天才である。

 天才ゆえに凡人のことが分からない時もある。

 浩輔は凡人サイドなので、授業だけ聞いて満点を取れる二人の感覚が分からなかった。


「「「……だから天才は」」」


 そのようなクラスメイトの心の叫びが聞こえそうなぐらい空気が張りつめていた。


「……毎日勉強してるのに六十点」


 由利は自分のテストと睨めっこしながら、妹との実力差を噛みしめていた。

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