第12話 龍次と汐音のこれから

 浩輔とは違い龍次は来年の三月西条高校を卒業してしまう。

 それは今では名残惜しい。


 入学当初は面倒で、学校に行くのも億劫だった。

 だから一年生の時は留年しないギリギリの出席日数を出て、なんとか進級した。


 その頃だろう。妹との仲が疎遠になったのは。

 妹は気弱でいつも男子に虐められていた。

 だから龍次は兄として妹を守った。

 妹はいつも龍次が来てくれると嬉しそうに笑ってくれた。

 でも龍次が不良になると、妹と疎遠になっていった。

 最初は妹が口うるさく説教してきたのだが、今では同じ家の中にいても話すことすらない。

 木村家の兄妹の中は冷え切っていた。




 後輩の浩輔に汐音との今後を聞かれて強がって答えたが、内心龍次は不安だった。

 あんなに仲が良かった妹とも今では他人よりも遠い存在になってしまった。

 今仲良くしている汐音ともいつか他人よりも遠い存在になってしまうのではないか。

 そう思うと怖いと思ってしまう。


 高校一年生の頃は誰とも接することなく一人で生きてきた。

 たまに服装や素行で注意してくる先生がいたがうるさくてろくに聞いてはいなかった。

 でも高校二年生になり、なぜか汐音に好かれた。


 その理由は今も教えてもらっていない。


 自分でも女子に好かれるようなことをした覚えがない。


 だから不安になる。


 汐音がいつの間にか幻滅していなくなってしまうことを。


 放課後の空き教室。


 今日、話があると汐音にラインをし、呼び出していた。


「やっほー龍ちゃん。どうしたのこんなところに呼び出して。あっ分かった。教室で制服を着たまま着衣セッ〇スしたくなったんでしょ。私たち学生だもんね。オッケーだよ」

「なにわけの分からないことを言ってんだ、お前は」


 思わず反射的に汐音の頭を叩いてしまう。

 なぜシリアスな雰囲気を汐音は察することができず、壊してしまうのか。

 それと同時になぜこんなに叩かれて痛いはずなのに自分のもとに離れていかないのだろうか。


「今日も龍ちゃんの拳骨は痛いね」


 頭を押さえながらヘラヘラ笑う汐音。

 なぜ汐音が叩かれても笑っていられるのか分からないが、早速本題に入る。


「俺は来年の三月に卒業だ」

「そうだね。あっもしかして卒業旅行の話?私はどこでも良いよ。でも泊りがけが良いな。卒業旅行はオールナイトしようよ」

「ちがーう。俺が言いたいのは卒業旅行のことじゃない」


 確かに卒業旅行も良いかもしれないが、今伝えたいことは卒業旅行のことじゃない。

 確かに浩輔の言った通り、汐音は性獣だ。

 こいつの頭にはエッチなことしかないのか。


「えっ、龍ちゃん卒業旅行したくないの」


 急に悲しそうな声で汐音は叫ぶ。


「そういうわけじゃない。その前に考えることがあるだろう」

「考えること……あっ分かった。龍ちゃん、単位がヤバいんでしょ。なら私が勉強を教えてあげるよ。高校三年生のところは無理かもしれないけど二年生のところまでは教えてあげられるから。こう見えて私、頭が良いんです。えっへん」

「そこは大丈夫だ。卒業できるギリギリの単位は取ってある」


 後輩の女の子に勉強を心配されるのはいろいろ精神的にきついものがある。

 でも龍次は変なところで頭が良いため、卒業できるギリギリの単位はとってある。


「俺が卒業するということは来年の四月から俺はこの学校に来なくなるんだぞ」

「……あっそっか。龍ちゃん私に会えなくて寂しくなるんだね。よしよし、だったら毎日家に行ってあげるから」


 龍次が意を決して本題を言うと、まるで龍次が汐音に会えなくなるのが寂しくなると思ったのか、背伸びしながら龍次の頭を撫でる汐音。


「俺のことじゃなく汐音のことだよ。お前は寂しくないのか。不安じゃないのか」


 龍次は浩輔に言われて寂しくも思い不安にも思った。

 今までは毎日会っているから寂しくも不安もないが、会えなくなるだけで寂しさも不安も大きくなっていくだろう。

 いくら電話やラインをしても直接会わない恋は自然消滅する確率が高い。


「そこは龍ちゃんと付き合う前に覚悟していたことかな。だって龍ちゃんは私の一つ先輩だもん。だったら一年早く卒業しちゃうのは分かってたことだもん」


 今まで数回しか見たことがない、汐音の穏やかな顔。

 汐音はそこまでの覚悟を持って龍次と付き合っていたのだ。

 龍次が卒業して遠距離恋愛になってしまうことを。


「だったら俺、りゅうね……」

「それはダメだよ龍ちゃん。ワザと留年はダメ。龍ちゃんが寂しくなったら毎晩龍ちゃんの家に行ってあげるから。それに私も寂しくなったら龍ちゃんの家に行くし私の家に呼ぶから。だから……別れないからね」


 ギュッと汐音が龍次のことを抱きしめる。

 最後の方はほとんど涙声だった。

 龍次だって不安だったのだ、汐音が不安に思わないわけがない。


 それに幸いにも汐音と龍次の家は近い。

 例え卒業してもお互いが会いたいと思えば会える距離だ。

 龍次もこの話をしていた時卒業を期に別れることも視野にしれていた。

 ずるずる自然消滅するよりはお互いキッパリ別れた方が楽だと思ったからだ。


 しかしそれは龍次の傲慢だった。


 汐音がここまで龍次のことを愛している。

 ならそれに答えるのが龍次の役目だ。


「俺もお前と別れるつもりはない。だからこれからも一緒にいてくれるか」

「うん、モチのロン」


 龍次も優しく汐音のことを抱きしめる。

 小さくて柔らかくて少しでも力の加減を間違えたら折れてしまいそうな汐音の体。

 窓から入る夕日が二人を祝福するかのように照らし、吹奏楽部の音色が二人を応援している。


「龍ちゃんも不安だったんだね。だったら今日は一日中やるわよ」

「おい待て汐音」

「時間は金なり。行くよ龍ちゃん」


 汐音は性欲が抑えられないのか、龍次の手を引っ張り教室を飛び出す。

 龍次はされるがまま、汐音に従いついていく。

 汐音と付き合ってから汐音に振り回される日常だが悪くはないと思う龍次だった。

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