第9話 一人という孤独

「木村先輩。木村先輩は卒業した後、汐音とどうするんですか」


 龍次はあと半年で卒業してしまう。

 その後、龍次と汐音の関係はどうなってしまうのか。

 浩輔は兄として汐音の将来を、後輩として龍次の心配をしていた。


「どうするんですかって、そんなのこれから俺と汐音で決めていくに決まってるだろ」


 なにを当たり前なことを聞いてるんだと言わんばかりに即答する龍次。


「でも木村先輩ってあと半年で卒業ですよね。あと半年後はもう高校で汐音に会えないんですよ」


 龍次が卒業すれば、当たり前だが遠距離恋愛になる。

 例え家が近くても学校でいつものように会うこともできない。

 それに大学に行って違う女に目移りしてしまうという懸念もある。


「確かに年が違うんだから当たり前だろ。だけど卒業したらはいおしまいが恋愛なのか」


 まるで浩輔に馬鹿にされたと言わんばかりに龍次が睨む。

 その威圧的な態度と本気の目に浩輔はビビってしまう。


「友達も学校を卒業しても続く人間もいるだろ。なら恋人は学校を卒業して会えなくなったらその関係は消えてなくなるのか」

「……いえ」

「確かに遠距離恋愛で会えなくなり別れるカップルもいる。もしかしたら俺と汐音も同じ運命を辿るかもしれない。だが、今の俺は別れる気はさらさらない。おかしいよな。あんなに汐音に告白されるのが面倒だったのに、今では手放したくないときたもんだ」


 最後の方は自嘲気味に龍次が笑う。

 確かに最初は嫌々で付き合っていたのかもしれない。

 でもいつの間にか龍次も汐音のことが愛おしくなっていた。


 これが恋愛なのだろうか。


 まだ恋をしたことがない浩輔には分からなかった。


「だけど汐音の意見も聞かねーとな。これは俺と汐音の二人で決めなきゃいけねーことだ」


 そして龍次はちゃんと相手のことを考えられる人間だ。

 決して自分のエゴだけを押し付けるだけではなく、相手のことも尊重できる。


 それが龍次の美点だ。


「そうですね。それは汐音と一緒に考えた方が良いかもしれませんね。けど汐音なら別れるなんて言わないと思いますけど」

「俺もそう思う。むしろ毎日泊まりに来るかもしれねーな」

「それはそれで木村先輩が心配です」

「俺かよ。もっと妹のことを心配してやれ。俺が無理矢理犯すかもしれねーぞ」

「いやいや。それは逆ですよ。あの性獣ならむしろ木村先輩が犯されてしまいますよ」

「そうなったらぶん殴るから大丈夫だ」

「木村先輩って汐音に対しては暴力的ですね」

「あいつは俺の彼女だからな。特別だ」


 特別扱いされて嬉しくない女子はいないと思うが、それはどうなのだろうか。

 でも汐音も特に龍次の不満は言っていないので、この関係が二人にとってはベストなのだろう。


「……木村先輩って一人で寂しくないですか」


 この話題を言うなら今だろう。

 浩輔は自然な流れで言おうとしたが、龍次は気づいたのかシリアスな空気を纏い始める。


「別に一人でいて寂しくはねーよ。でもそもそもその質問自体がおかしい」


 龍次はやっぱり強い。

 クラスで一人でいても、なんとも感じない心が羨ましい。

 でもなぜか質問自体を否定されてしまった。一体どういうことなのだろうか。


「お前は一人で寂しいとか言ったが、じゃー今誰と話してるんだ」

「えっ、木村先輩ですけど」


 いきなりな質問に面を喰らう浩輔。


「そうだ。別に一人じゃないだろ」


 その言葉の意味に気づいた瞬間、自分の愚かしさを嘆いた。

 確かに浩輔はクラスで話す人はない。


 でもクラスには汐音もいる。


 汐音なら教室で話しかけても嫌な顔一つせず、会話をしてくれるだろう。


 それに学年は違うが龍次もいる。


 龍次も浩輔が悩みとか相談したい時、嫌な顔をひとつせず付き合ってくれる。


「お前の周りにもちゃんと友達はいる。だから心配するな。それにもし一人でも寂しくはないと俺もは思うぞ。面倒くさい人間関係がないからな」


 そう言って龍次は浩輔の頭を撫でる。

 年は一歳しか離れていないのに大人びている龍次。


 僕もあと一年したらこれぐらい大人になれるだろうか。


 そんな未来のことは分からない。


 でも、こんな先輩になりたいと浩輔は思う。


「はい、ありがとうございます」


 龍次に励まされた浩輔の心は少しだけ軽くなった。

 遠くの方で予鈴が鳴るのを聞いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます