第8話 いつもでも高校生ではいられない

 秋という季節は過ごしやすい季節でもある。

 これからだんだん冬に向かうにつれてどんどん寒くなっていく。

 そうなると外に出るのも憂鬱になる。


 昼休みの校庭ではサッカー部がサッカーを練習しており、校舎の中や近くからトロンボーンやフルート、トランペットなど吹奏楽部の練習が聞こえてくる。


「ありがとうございます」

「後輩が気を使うな」


 紙パックのコーヒー牛乳を受け取り、浩輔は龍次にお礼を言う。

 龍次のこういうぶっきらぼうも浩輔的には好感が持てる。

 コーヒー牛乳を受け取った浩輔はストローを指し、一口飲む。

 秋のポカポカとして暖かい中庭で冷たいコーヒー牛乳はおいしい。


 この甘さが浩輔は好きだった。


 世の中もこれぐらい甘ければ生きていくのも楽しいだろう。

 ちなみに龍次はコーラを飲んでいる。


「そう言えば木村先輩って進路って決めたんですか」


 いきなり本題を話すのが恥ずかしかった浩輔は違う話題を龍次に振る。


「あっ、別に進学だよ。親も学歴はあって困るものじゃないと言ってるからな」

「そうなんですか。てっきり就職だと思ってました」


 浩輔も人のことを言えないが、不良みたいな龍次のことだからてっきり高校を卒業したら就職すると思っていた。


「別に俺は進学でも就職でもどっちでも良かったんだがな」


 コーラを飲みほし、どうでも良いような感じで言う龍次。


「木村先輩は将来したいこととかないんですか」

「ないな。だから進学する理由の一つでもあるがな」


 確かに将来やりたいことがなくて、大学に進学してから見つける学生も増えている。

 大学に行けば最低でも四年間学生としてのモラトリアムがある。

 その四年間で自分がやりたいことを見つけるのも一つの手である。

 それに学歴があって困るものではない。


「そういうお前はどうなんだ。将来なりたいものはあるのか」

「別にないですね。それに大人になった自分も想像できませんし」


 龍次のことは言えないが、浩輔も将来なりたいものがなかった。

 それに自分が大人になった姿も想像できない。

 自分が二十歳になり社会人になっている姿が想像できない。


「確かに俺たちはまだ高校生だ。大人になった姿を想像できないかもしれないが、必ず大人になっていく。それだけは間違いない」

「……」


 確かに龍次の言う通り、いつまでも子供のままではいられない。

 年というものは自分の意思に関係なく取っていく。


「浩輔と同じ俺にもやりたいことはない。せっかく親が大学に行かせてくれるなら無駄にはしたくないと思っている。これから四年間かけてやりたいものを見つける予定だ」


 なにも考えていないようで、龍次はいろいろと考えている。

 たった一歳しか違わないはずなのに、龍次は浩輔よりも何倍も大人びていた。


「そう言えば木村先輩はあと半年で卒業ですね」

「あ~そうだな。長いようで短い三年間だったな」


 龍次が来年大学に行くということは、あと半年で龍次が高校を卒業するということだ。

 そう思うと寂しいと浩輔は思う。

 他学年で浩輔のことを、こんなにも親身に話を聞いてくれる人は龍次しかいない。

 そう思うと心の中にポッカリ穴が開いたような虚無感に襲われる。


「高校入学した時は三年もあるのかよと思ってたけど、今ではもう半年しかねーんだな」


 しみじみと呟く龍次。

 龍次にも高校一年生の時があり、今までの二年半の思い出がこの学校にはある。

 その思い出の一部に浩輔がいても、全てではない。

 浩輔が知らないような経験だってたくさんしているはずだ。

 龍次はこの二年半の間、たくさんの思い出もこの学校で作ってきたのだろう。


「まさか俺に彼女ができるなんて高校一年生の頃の俺に言っても信じてもらえねーだろうな」


 龍次と汐音は付き合って約一年である。

 告白したのは汐音の方で四回ほど振ったらしい。

 そして五回目の告白で、根負けをした龍次が汐音と付き合うことになったのだ。

 その時からだろう。浩輔が龍次と話すようになったのは。

 最初は龍次の愚痴だった。汐音に告白されて面倒くさいという内容だった。

 でも今は龍次も汐音も幸せそうにお互い付き合っている。

 まぁ、龍次は今でも汐音に振り回されてたまに愚痴られることがあるのだが。

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