妹が眩しくて

葵希帆

プロローグ 凡才の姉と天才の妹

第1話 双子の兄妹

学校も終わり、辺りは夕闇に飲み込まれていた。

 学校で雑務をしていたため、こんなに遅くなってしまった。


 今日は金曜日の夜。


 街はいつもより活気に満ちていた。


「……やっぱり日差しがなくなると冷えるな」


 十月下旬。日中が温かく過ごしやすい気候なのだが、夜になると一気に肌寒くなってしまう。


「早く家に帰ろうと」


 桐山浩輔は急いで家に帰ろうとする。

 浩輔には双子の妹がいる。成績優秀、運動神経も抜群。ただし家事が壊滅的にできない。

 妹が家事をすると逆に余計な手間がかかってしまうため、自分一人でやってしまった方が楽なのだ。

 今頃、妹は兄の帰りを待っているだろう。


 桐山浩輔は西条高校に通う二年生の男子生徒だ。

 身長百七十前半で、成人男性の平均的な身長しかない。

 クラスで目立つわけでもなく、大人しく過ごしている。

 黒髪の短髪で、同じ双子とは思えないと親からも言われる始末である。

 逆に妹の汐音は活発で明るく、友達も多い。しかも彼氏持ち。

 汐音の彼氏は同じ学校の先輩で、強面のマッチョである。

 最初紹介された時は殺されるかと思ったが、実は優しい先輩でよく汐音の面倒を見てくれる。


「ん、電話だ」


 浩輔の電話が突然鳴り、急いでサイレントモードにしてから宛先を確認する。


 桐山汐音。


 浩輔の妹からだった。


「はい、もしもし汐音。どうしたの」

『おっはー、お兄ちゃん。今日、龍ちゃんの家に泊まるからよろしく』

『おい汐音。泊めるとは一言も言ってねーぞ』

『えー良いじゃん。今日は週末だよ。オールナイトしようよ』


 電話の向こうから陽気な声と怒鳴り声が聞こえる。

 陽気な方が汐音で、怒鳴り声が龍次だ。

 会話の内容があまりにもエッチだったため、街中で顔が赤くなってしまう。

 一体、どんな会話をしてるんだ、あの二人は。

 通行人の視線が怖くて周りを見れないがきっと、誰も浩輔には注目していないだろう。


『さっきヤったばかりだろ』

『だって男の子は賢者タイムがあるから連続でできないじゃん』

『お前、兄貴に電話しながらなんちゅーこと言ってんだ』

『良いじゃん。私、龍ちゃんとのセ○クス好きだよ』

『いい加減にしろ。親だって帰ってくるんだからな』

『痛い痛い。そんなに激しくされたら……らめぇ~。わ、割れちゃう~。血も出ちゃう~』


 あれ、これは聞いても良い話なのだろうか。

 浩輔はいけない妄想をしてしまう。

 電話しながらセ○クス。さすがにアブノーマルすぎるだろう。


『お前の頭を割ってやろうか、あぁ』


 龍次のドスの効いた声が電話越しから聞こえてきた。

 なんだ、龍次が汐音のこめかみをグリグリしているだけか。

 セ○クスでないことを知った浩輔は、脱力感に襲われる。


『浩輔。汐音は夕飯食べたから心配するな。後で俺が送ってやる』

「ありがとうございます、木村先輩。汐音のことよろしくお願いします」

『あぁ、任せとけ』


 そう言って、電話が切れた。

 ということは今日の夜は一人でご飯を食べるということだ。

 それは少し寂しいなと思う。

 汐音とは生まれてからずっと一緒に暮らしてきた。

 しかもお腹の中から一緒なのだ。

 いろいろ思うところがある。

 でも、兄妹だとしてもすっと一緒にいられるわけではない。

 いつか汐音も彼氏ができ、いなくなってしまう。

 その彼氏が龍次で本当に良かったと浩輔は思う。

 龍次なら汐音を任せられる。むしろ、汐音の手綱を握れるのは龍次ぐらいしかいないだろう。


 あの天真爛漫な汐音相手では。


「……だけど汐音と木村先輩が結婚したら木村先輩に『お義兄さん』と呼ばれるんだよな」


 それはそれで気まずい。

 年上の人にお義兄さんは違和感がある。しかも強面でかなり腕っぷしが強い。

 複雑な気持ちである。


「まっ、汐音と木村先輩が結婚したら考えるか」


 捕らぬ狸の皮算用。今、そんなこと考えても杞憂である。

 浩輔がそんなことを考えながら歩いていると、駅前で誰かを待っている女子生徒を見かけた。


「あれは由利さん」


 その女子生徒は、クラスメイトの漆原由利だった。

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