第10話【優しさのメロディー】

 僕が目を覚ますと、そばでチャーリーが静かな寝息を立てていた。


「ありがとう」


 そう呟いて、起き上がる。エドワードは見当たらない。喉が渇いたので、グラスに水を入れて飲んだ。チャーリーが起きる気配はない。

 チャーリーを起こさないようにしながら、僕は本棚に近付く。ここには、本当にたくさんの本がある。僕は日本語しかわからないから、日本語の本を吟味する。

 ここにある全ての本を僕は読んでも良いのだ。「周りの目を気にせず読める」、それだけで十分幸せを感じた。


「ふふふふふん♪」


 自然と鼻歌がでた。僕の心をいつも暖めてくれる大阪府と兵庫県出身のメンバーで構成されるとあるバンドの曲だ。活動休止を経て、見事に復活してくれた僕の心のオアシス。

 そんな彼らの曲を口ずさんでいると、ちりんっと鈴が鳴った。振り返ると、足下にチャーリーがいた。


「なおん」


 チャーリーは、心配そうな声を出した。


「ごめんね、心配かけた上に起こしちゃって。僕はもう大丈夫だよ。ありがとう」


 僕は鈴を鳴らして、僕に無言で擦り寄る。僕は、 彼の温もりを感じた。

 思えば、僕はここに来てから、エドワードやチャーリーに良くしてもらってばかりだ。そのお礼もできていない。

 僕にも何かできれば良いのだけれど、僕には本を読むくらいしかできない。それなのに、どうして彼らはこんなにも良くしてくれるのだろう……?


「僕には何もない……」


 思わず口をついて出た。言って、自分に幻滅する。僕には何がある? 僕の生きる価値は? ここにいる意味はある?

 自問自答しても、答えは出ない。わかっていても、僕の頭をループする。


「みぁあん」


チャーリーが、頭を足に擦り付ける。


「ごめんね、いつもありがとう」


 彼は、首を傾げる。


「なぜ、謝る必要があるのかね?」


 エドワードが、そう話しながら入ってきた。


「あ、おかえりなさい」


「なぜ、君が謝る必要があるのかね? 君は何も悪いことはしていない。君は、ここで好きなだけ本を読んで、好きなことをすれば良い。私達は君を歓迎しているし、君が気を遣う必要はない」


 彼は、優しい微笑みを僕に向けた。僕の心は、途端に解けだす。

あぁ、ここの人達は、なんて良い人達なのだろう。僕のためにこんなにも良くしてくれる。

 ここに来て本当に良かった。僕を無条件に受け入れてくれる。僕もこんな風に優しい人になりたい。


「ありがとうございます」


 僕の精一杯の笑顔でお礼を伝えた。エドワードは僕に笑顔を向けながら、手荷物をテーブルに置いた。どうやら、買い物に行っていたようだ。リンゴが一つ、紙袋から顔を覗かせている。


「さて、望。カフェオレはいかがかね? チャーリーは、ミルクはどうだい? 新鮮な牛乳が手に入ってね」


 にこやかな笑顔でそう言う彼に、僕は安心感を覚えた。


「みゃおん」


「いただきます!」


 僕の元気な返事に、エドワードは笑顔を浮かべた。

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