第6話【読む】

 不思議な光景を目の前に、僕は言葉を失っていた。


「さっきまで明るかったのに……。今の一瞬で、変わってしまうなんて……。これが【空】というものなのかな?」


 よくはわからないが、一瞬で空の様子が変わったのは間違いない。今は、満天の星空とあたたかい満月が暗闇に浮かんでいる。久々に見た満天の星空に圧倒された。


「にゃあ」


 白猫……いや、チャーリーだな。彼の声で、我に返った。そうだ、僕には【役目】がある。部屋に戻ろうとした。すると、するりとチャーリーが先を行き振り返る。


「にゃおん」


 僕を急かしているつもりだろうか? そうだとしたら、可愛らしい急かし方ではないか。

 うっかり微笑みながら、僕は部屋へ入る。ソファに置いていた本を取り、続きを読みにかかる。チャーリーは、僕の目の前でちょこんと座った。

 本の中の彼女は、砂漠にいた。黒猫と共に。砂漠の景色を描いていく彼女。とても楽しそうに、それでいて、どこか寂しそうな様子が文脈から漂ってくる。

 彼女は、何故寂しそうなのだろうか。会ったこともないのに、彼女の様子が鮮明に頭に浮かぶ。彼女は、懸命に鉛筆を走らせている。

 顔はわからない。後ろ姿だけだ。しかし、頭に浮かぶ彼女を、僕はとても美しいと思った。どうしてこんなにも鮮明に仕草が頭に浮かぶのか? わからないが、彼女に惹かれている自分がいた。

 描き終わった後の彼女も、とても美しかった。


 キリのいいところだからか、突然現実に引き戻された。


「なぉん」


 チャーリーが、僕を見上げていた。ヒゲが下がっているからか、心配してくれている気がした。どうしてだろうかと思いつつ、ふと頬に触れると、僕の頬に一筋の涙の跡がついていた。


「あれ、なんで涙が……?」


 思わず僕は、自分の頬を軽くこする。


「あ! そういえば、君の名前はチャーリーと言うのかい?」


「にゃ!」


 なんだか誇らしげな返事が来た。白くてふわふわしているチャーリーは、これまたふわふわと尻尾を振った。僕は、改めて頬を拭った。

 僕は、チャーリーを見つめていた。しかし、それは突然だった。さっきまで思い浮かんでいた彼女達が、フラッシュバックする。

 脳内で激しく鉛筆を踊らせる彼女。彼女の心が文章を通してくる。

 頭が熱い。彼女の気持ちが脳内で暴れている。あまりの暴れ具合に、こっちの気が狂いそうだ……!


ぶつんっ――


 頭の中で、何かが切れる音がした。目の前が真っ暗になると共に、僕は意識を手放す。

僕が意識を手放す一瞬、脳内の彼女が振り返ろうとした。そして、チャーリーは驚いて駆け寄ろうとしていた。

 僕の視界と記憶は、ここで途切れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます