第5話【出来事】

 どれぐらいの時間が経ったのだろうか。エドワードが、おもむろに立ち上がった。


「私は、今から少し出ないといけない。君は、ここで本を読んでいたまえ。なぁに、ちょっとした買い物だ。誰かが来ても、気にしなくて良い」


「わかりました」


 彼は微笑んで、颯爽と扉を開けて出て行った。僕は少し戸惑いながらも、先程読みかけていた本の続きを読み始めることにした。

 物語に出てくる彼女が最初に描いたのは、とある湖のほとりだった。彼女が描ききるまでの葛藤がよく伝わってくる。映像のように脳内で彼女が動く。彼女の声までもが、脳内で再生される。優しい声だ。

 そんな風に読書にのめり込んでいる時だった。突然扉が開いて、人が入ってきた。気にしなくて良いと言われていたが、チラリと視線だけを向ける。老人だった。

 彼はパズルを眺めていた。容姿は、スリムなドワーフといった感じだ。彼が、ロジャーという人物だろうか?

 彼は中央のジグソーパズルに近付く。ガラスの蓋を開け、服の内ポケットらしきところから杖を取り出す。そして、杖で円を描きながら何やら呟く。

 すると、ジグソーパズルがぱぁああっと光り輝き、宙に浮いた。一度バラバラになったかと思うと、また全てのピースが綺麗に並ぶ。そして、光がすうっと消えると共に、またゆっくりと元の位置に戻っていった。

 今目の前で起きた光景に、本を読む手を止めて見入った。しかし、彼は僕が見えているのかいないのか、こちらを見ることもなく出て行った。

 彼は一体何者なのか? 今何をしたのか? 頭が混乱する。ただ、外が暗くなったのか、辺りが暗くなったのは確かだ。


「今のは一体……?」


 はたと我に帰り、慌ててジグソーパズルを覗き込みに行く。明るい太陽があったはずのジグソーパズルには、満月の浮かんだ星空が広がっていた。


–ここは、その日飾られた【空】という物によって決まる–


 エドワードの言葉を思い出し、慌てて外に出る。明るかった筈の空には、満月と満天の星空がジグソーパズルとまったく同じ様子で広がっていたのだった。

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