第3話【役目と疑問】

 僕が本に夢中になっていると、


「あれ? お客様かな?」


 僕が入ってきた扉が開く音と共に、男性の声が聞こえてきた。

 緊張して本を持つ手に力が入る。声のした方へ恐る恐る顔を向けると、長身の男が立っていた。

 年は四〜五十代だろうか。ダークブラウンのスーツに、ダークブラウンのソフトハット。男の僕も見惚れるような男だ。声も良い。一言言うならば、単純に羨ましい。

 何をどうしたらこんな風になれるのか。そんなことを考えながら見惚れている僕に、彼は更に話しかけてきた。


「君は、どうやってここまで来たのかね?」


「えっと……、白猫について来たんです」


 僕は返事をしながら、本をまだ持っていることに気付く。


「あっ! すみませんっ! 勝手に入って……。しかも、勝手に読んじゃって……。タイトルに惹かれてしまって……」


 慌てて本を戸棚に片付けながら、言い訳をする。


「構わない。でも、そうか……。それなら、君は白猫に連れて来られたのか……。ではきっと、【本を読む】ということが君の役目だ」


 そう言うと、彼は優しく微笑んだ。


「僕の役目……?」


「そう、君の役目だ。君をここに連れてくることが、白猫の彼の役目。そして、ここに来て本を読むことが君の役目だ」


 彼は言葉を続けると、にっこりと笑みを浮かべた。


「僕の役目……」


「そうだ、君の役目だ。ところで、君はコーヒーは好きかね? 良かったら一緒にどうだね?」


 僕の疑問を知ってか知らずか、彼は僕にコーヒーを勧める。


「コーヒーより、ここはどこなんです? 僕がいた所は夕暮れだったのに、何故ここはこんなにあかるいのですか? 僕は何故ここに来ることになったんです? 【僕の役目】ってどういうことなんですか?」


 僕は、矢継ぎ早に質問する。そう、僕は混乱しているのだ。いろいろと意味がわからない。


「大丈夫。少なくともここは危険な場所ではない。一体ここがどこなのかも含めて、コーヒーを頂きながら話そうではないか」


 そう言って、彼は僕をソファへ導くのだった。

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