1-14

 2010年になって1月も半月が過ぎた。加納とはメールや電話のやりとりを重ね、休日も何度かあってはいるがまだ告白の返事は出来ていない。


 1月最後の土曜日、有紗は早河探偵事務所を訪れた。先週新婚旅行に出掛けた早河となぎさがお土産を買ってきてくれたのだ。

お土産を受け取り、旅行の最中に早河達の身に起きたプチ事件の話を彼女は興味津々に聞いていた。


『悪い、仕事の電話だ』


新婚旅行話が一段落したタイミングで早河の携帯が鳴り、彼はなぎさと有紗を残して三階の自宅に上がった。有紗には聞かせられない内容の電話なのだろう。


「なぎささん、すっかり奥様って感じ!」

「そうかな? まだ結婚式もしてないからなぁ。あんまり奥さんの実感わかなくて」

「ふふっ。結婚式楽しみだなぁ」


 半年後に予定されている早河となぎさの結婚式には有紗も父親の政行と共に出席が決まっている。

向かいのソファーに座るなぎさの左手薬指に嵌まる指輪。なぎさとお揃いの指輪を早河も左手の薬指に嵌めていた。


「早河さんの結婚相手がなぎささんで良かった。本当にそう思ってるよ」

「ありがとう。有紗ちゃんにそう言ってもらえて嬉しい」


姉のいない有紗にはなぎさは姉同然の存在。なぎさにも有紗は妹のような存在だ。


「実はなぎささんに相談があって……」


 有紗は加納の話をした。加納にこれまで抱いていた印象や有紗の事情を話した上での告白、返事を待ってもらっていることをなぎさにポツポツと語る。


「そっか。その人は有紗ちゃんの過去を知っても告白してくれたんだね」

「うん。絶対引かれると思ってた。でも加納さんはそんなこと関係ないって言って……。私に対して無愛想で口悪いし態度も悪いくせに好きとか、訳わかんないっ! ねぇ、なぎささんは早河さんのこと最初から好きだったの?」


有紗に聞かれてなぎさは首を傾げて唸った。なぎさの話を待つ間、有紗は旅行土産の温泉まんじゅうに手を伸ばす。


「彼とは最初は兄の同僚として出会ったのよね。その時の印象は優しい人だと思ったよ。正直に言えばその時からほんのり好きだったのかも。だけど助手としてここで雇われてからはねぇ……。態度が180度変わって、人使いは荒くて口も悪い、人としては尊敬してもこの人と恋愛はありえないっ! って思ってたかな」

「私がなぎささんの家に居候していた時はそんな感じだったね」

「ねぇ。まさかその1年後にその人と結婚してるとは思わなかった」


それでもなぎさは早河を好きになり、早河もなぎさを好きになった。


「人を好きになるのにいつから好きになったかなんて基準はないのよね。いつの間にか好きになっているの。加納さんもいつの間にか有紗ちゃんを好きになっていたんだと思うよ」

「そっか。そうだよね……」


 階段を降りる音が聞こえる。早河が事務所に戻ってきた音だ。


「今の話、まだ早河さんにはナイショにしててね」

「了解」

『何が内緒だって?』

「女同士の秘密のお話」


なぎさと有紗は二人して早河に含み笑いを見せる。困惑する早河を見て、二人はさらにクスクス笑った。

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