27話 恋のすれ違い
俺と篠原は電車に乗り込んで再び都心に向かっていた。篠原は自分の得意分野の話題が出て嬉しいのか興奮した様子で喋っている。
「万年筆はね、読んで字のごとく長く大切に使っていられる道具なの。特に金ペンは一生ものね。私も使っているのよ」
篠原は緑の縞模様の万年筆を俺に見せてくれた。キャップの先端に鳥の紋章があって、クリップも長い
「ところで質問いいか?」
「ええ、なんでも聞いて」
「俺たちはどこに向かっているんだ」
「安心して、私の行きつけの店があるの。そこならインクも紙も揃っているし、店主さんはペンドクターの資格も持ってるのよ」
ペンに医者がいるなんて初耳だが、今はそんなことはどうでもよかった。
「要するにその店に二人で出かけるってことだよな?」
「ええ、私がいろいろ教えてあげるわ」
「じゃあ、これはデートってことでいいか?」
「へ? で、デート!?」
篠原は顔を赤面させて動揺する。
「ああ、放課後に二人で出かけて、買い物するんだからデートだよな」
「そ、そうだけど、どうして殊更に強調するのよ。そんなこと言われたら意識しちゃうでしょう」
「意識してもらわないと困るんだが」
俺は篠原が寄りかかっているドアに自分の手を押し付けた。篠原に正面から顔を近づける。彼女は目を伏せて足元を見つめた。
「なんのつもり?」
「車内で靴を投げつけてくる女に言われたくないな」
「み、見られているわよ」
「そんなの屁でもないさ」
「屁も出ないっていうの?」
「篠原こそどうなんだ」
「ど、どうって?」
「俺のことどう思ってるんだよ」
「……いいから離れて!」
篠原は両手で俺を突き飛ばした。俺はドスンと大きな音を立てて尻餅を着いた。アナウンスが流れて電車が駅に到着する。
「先に行っているからね!」
怒らせてしまったのか篠原は開いたドアから飛び出してしまった。俺は慌ててあとを追いかける。改札を抜けて、駅構内を歩き回ったが彼女の姿が見えない。もしかして俺を置いてどこかにいってしまったか、と心配していたら女子トイレから普通に出てきたので合流できた。
「さっきは悪かった」
「いいのよ、気にしないで」
「でも、本当にごめん。俺、焦ってたのかもしれない」
「私も焦ったけど……でも本当に気にしないで」
俺はなんて馬鹿なんだ。先走って嫌われたら元も子もないじゃないか。ちゃんと篠原が答えを出してくれるのを待つべきなんだ。篠原はまたなにか悩みを抱えているようだったし、急かすべきはなかった。
もしかしたらこれが二人に軋轢を生んでしまうかもしれない。そう思うと俺は不安で仕方なかった。
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