27.話をしに来ただけ

兵士達は突然部屋から現れたサヤに臨戦態勢をとるが、クリステアがすぐにそれを手で制してやめさせる。

どんな手段を使ったかは分からないが、エイーダが張った強力な結界を潜り抜け、今そのエイーダを拘束してしまうような相手だ。そんな相手、自分達がいくら束になってかかっても敵わないだろう。それに、サヤからエイーダへの敵意は感じられない。そう判断してクリステアは兵士を止めた。

そんなクリステア達の判断を察したのかどうか分からないが、サヤは異空間魔法から、3人の男を放り投げるような形で呼び出した。その3人とは、ゴロと「マリステル」の暗部の者である。


「この3人が私の可愛いラナとシアに手を出した奴らよ。って言えばすぐに対処してくれるのかしら?」


「なるほど。彼らがそうなんですね。クロコ。いますね?」


「はい」


クリステアが呼びかけると、クロコはクリステアのすぐ側で膝をつく形で待機していた。突然現れたクロコに兵士達は驚いていたが、サヤは特に驚いた様子もなく、クリステア達の行動を見守る。


「すぐにこの3人の取り調べを。貴方達はすぐにこの3人を牢へと連れて行きなさい」


「はっ。承りました」


クロコはそう言ってまたすぐに姿を消す。兵士達はそれにまた驚いたが、自分達が命じられた事を思い出し、すぐにゴロ達を牢へと連れて行く。そして、兵士がいなくなったのを確認したサヤは、ようやく担いだエイーダを地面に降ろす。


「ぐっ……!?お主!?どうやって中へ入ったんじゃ!!?」


地面に降ろされたエイーダは開口1番にその疑問を口にする。


「どうやってと言われても普通に転移の魔法を使っただけよ」


「んなぁ!!?そんなバカな!!?」


エイーダは目を見開いて驚いている。近くで話を聞いているクリステアも同様だ。

転移の魔法と言っても、そこまで便利な代物ではなく、一度行った事のある場所にしか転移出来ない。しかし、サヤは一度もエイーダの私室に行った事がない。故に、エイーダの私室に転移出来るはずがない。いや、そもそもが私室全体に結界が張られているので、よっぽど力が強い者でなければ転移出来ないのだが、そこはサヤだからエイーダもあまり疑問に思わなかった。で、その事をエイーダが口に出したら……


「別に。ただ、あなたのいる場所に転移したいと思って転移したら出来たわよ」


「んなぁ!?お前さんはどこまで規格外なんじゃ!!?」


転移の魔法にはいくつかの制限がされている。まぁ、それも当然でどこでも転移出来たら犯罪が増えてしまう。故に転移出来るのは、国や町や村の入り口付近か、「迷宮」の入り口付近、一度訪れた事がある森や岩場などの人の管理下にない場所だけである。なので、サヤが行ったら術は絶対にあり得ない行為なのだが、もうこれも、サヤだから当然かと受け入れるしかないとエイーダは思った。


「おまけに……クロコからスライムのスタンピードがお前さんが先程までいた場所に起きたという報告が上がったが、そちらもお前さんがどうにかしたんじゃろ?」


「えぇ、この通り」


サヤは再び異空間魔法から大量のスライムの魔石を取り出した。


「相変わらず規格外な奴め……ん?ちょっ!?お主!?ここにある魔石!?全部メタルスライムの魔石ではないか!!?」


大量のスライムの魔石の中に、メタルスライムの魔石がいくつか混じってるのを見て驚きの声をあげるエイーダ。エイーダのように声は出さないものの、クリステアも目を見開いて驚いている。


「しかも……数も100体近くあるぞ!?まさか!?これもお主1人でやったのか!!?」


「当然でしょ。あの場で戦えるのは私1人だけだったのだから」


あまりの事に信じられず、エイーダもクリステアも呆然とサヤを見る。100体近くのメタルスライムを相手に、数分もかからず対処してきたと言うのだ。いくらサヤが規格外と理解していても信じられる話ではない。


「それより、いい加減話を聞きたいのだけれど?」


サヤの言葉にようやくハッと我に返ったエイーダは一つ咳払いをし


「分かった……いずれ話さねばならんと思っておった話じゃ。お主の娘達についてきちんと話をしよう。じゃが……その前に………………




この拘束いい加減解いてくださいお願いします」


一国の王が、ただの冒険者に頭を下げて懇願した瞬間だった。

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