30.その目に焼きつけなさい
サヤは奴隷商の2人をアッサリ見逃した。というのも、彼女はすでにスバルが乗っていた場所に追いついており、スバルが2人を攫ったのも分かっていた。
しかし、サヤはあまりの怒りからか逆に冷静に物事を考えれるようになった。あのスバルはあくまで頼まれてやっただけで黒幕がいるのではないかと?
娘を攫った不届き者は徹底的に裁く。そう考えサヤはあえてしばらくスバルを泳がせていた。無論、スバルが2人にこれ以上何か仕出かすなら、ボコボコにして黒幕を吐かせたが、彼が使ったのはどうやら眠らせる魔法だけだと分かっていたし、そっちの方が娘達に色々見せる事が無くなるので逆に都合が良かった。
「ひいぃ!!?俺らは何も知らない!!?」
「俺たちは何も関係ないです!!?」
「あっ!?テメェら!?待ちやがれ!!?」
グラニフの仲間達がサヤへの恐怖心から、グラニフを置いて逃げ出そうとするが、その仲間達が何故か突然次々と口から泡を吹いて倒れる。
「なっ!?お前!!?一体何をした!!?」
「あら?心外ね。あなたを置いて逃げ出す部下をこの場に留めてあげたのに」
サヤはうっすらと微笑みを浮かべてそう言った。と言っても、サヤが実際にしたのは、この場にいるグラニフと娘達以外の人に自分の殺気をぶつけただけである。それだけでグラニフの部下達は全員倒れたのだ。奴隷商2人は見逃しても、それ以外の者達をサヤが見逃すはずがなかった。
(クソッ!?何とか……!?何か逃げる策は……!!?)
グラニフはこの場から逃げる為の策を思案していると……
「うぅ……!?」
運がいいのか悪いのか。スバルはグラニフに殴られ気絶していたせいでサヤの殺気を浴びずに済んだのだった。
それに気づいたグラニフはニヤリと笑うとスバルに近づき、持っていた瓶の蓋を開けて、そこから漂う香りを無理矢理スバルに嗅がせた。
「んがあぁ!!?」
「こいつは人に幻覚に凶暴化させる匂いだ!!!この匂いを嗅いだ奴は死ぬまで暴れ続ける!!!お前には俺が逃げるまでの時間稼ぎをしてもらうぞ!!」
最初からグラニフはスバルを捨て駒にしか思っていなかった。だから、スバルにこんな事をするのに心が全く痛まなかった。
(嫌だ!?嫌だ!?嫌だ!?嫌だぁ〜!!?死にたくない〜!!?)
「いやだぁ〜!?いやだぁ〜!?いやだぁ〜!?じにだくないぃ〜!!?」
頭と言葉はこんな事したくないと訴えても、身体が剣を取り無茶苦茶に暴れ回る。スバルは死にたくないと願っていても死を覚悟するしかなかった。
「殺す訳ないでしょ。あなた殺して捕まって娘達と会えない期間が出来るなんて真っ平ごめんよ」
サヤはアッサリそう言い放つと、魔法を一つスバルに放つ。すると……
「えっ……!?あれ……!?身体が……自分の思う通りに動く……!!?」
スバルは先程まで全然自由がきかなかった身体がちゃんと動けるようになった。それを自分で変だと思いながらも不思議に思っていると……
「あなたの贖罪。それは、今起きる事を目を離さずにその目に焼きつけることよ」
サヤはスバルにそう言い放つ。そして、サヤは逃げ腰になってるグラニフを睨みつけ
「その目に焼きつけなさい。あなたがこのままなら、将来こうなるという事を……」
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