19.残された物件は……

サヤ達が案内された場所、そこは……


「これは……」


「すごいボロボロ……」


ラナとシアが思わずそう呟いてしまうほど、その家はボロボロで、家として全く機能していなかった。


「けど、間違いなく私が希望を出した物件である事は間違いないわね」


サヤが希望を出した条件。それは、アロマとディアスの経営する宿屋から近い事だった。そうすれば、自分が何かあった時に、すぐに娘達をアロマに預ける事が出来るからという事でそのような条件を出したのだ。


で、その問題の場所はアロマ達の宿屋から歩いて1分もかからない場所にあった。前に紹介された家は徒歩で10分ぐらいなので、それに比べたらはるかにサヤの言う条件を1番にクリアしていた。


「おい……いくら何でもここは……」


「しかし、サヤ様の言う条件を満たしてる物件はここしかなくて……」


アロマ達の宿屋は人気で、飲んだらすぐに家に帰れるようにしたいと考えた冒険者達が、こぞってアロマ達の宿屋の近くの物件を購入したので、残ってるのはこの物件しかなかった。


「って言うかなんなんだ……この物件は……」


「それに関しては……あっ!来ました!」


「一体なんなんだ……急に呼び出して……ん?サヤ達じゃないか?お前達は家を購入しに行くんじゃなかったのか?」


現れたのはディアスだった。どうやら、この物件を売りに出したのはディアスのようだ。まぁ、宿屋からかなり近い場所なので、そこは予想の範囲内であるが……「テリュカホームショップ」の職員がさっそくディアスに事情を説明した。


「なるほどな……サヤ。お前も相変わらず難儀な奴に絡まれてるな」


ディアスはチラリと何故かついて来ているグラニフを見てそう言った。そのグラニフはニタニタと笑っているが、サヤは完全無視でディアスに聞く。


「それで、ディアスさんがこの場所を売りに出したの?」


「あぁ。ここはお前さんがやって来るよりも前までは、俺達の宿屋の2号店という形で機能させていたんだがな、酔っ払った冒険者共が揉めて暴れたせいでこうなってしまってな……」


一応、その際にギルドから保険金のような形でお金はおりたが、それを修復するよりは仕込みなどの資金にした方がいいと思い、ディアス達はこの場所を手放したのだ。


「前々からちょっとボロい場所があるなぁ〜とは思っていたけど……」


「そんな事情があったんだね……」


ラナとシアは遊んでいた時にこの場所をチラッと見かけた事はあった。間近では見た事がなかったので、最初見せられた時には驚いていたが……ちなみにサヤはこの場所については知らなかった。ラナとシアの事に関するもの以外は興味がなかったのだ。知っていたら恐らくは……


「くくく……!いいじゃねえか!元ゴミ屑の役立たずにはピッタリじゃねえか!」


グラニフはゲラゲラ笑いながらサヤにそう言う。ラナとシアは不快そうにグラニフを睨みつける。ディアスは片眉をピクリと上げるが、黙って立っている。で、肝心のサヤは……


「それで、この場所の値段はおいくらかしら?」


「へっ?あっ、えっと……こちらになります……」


職員はいきなりサヤに問われ、慌ててサヤにこの土地の契約書らしき物をサヤに渡した。


「あら?随分と安いのね」


「はぁ……まぁ、家はもう機能してないと考えてますから土地代だけの代金になりますので……」


だいたいが土地代と家がセットの値段なので、この場所はもうすでに家が機能していないものと考え、土地代だけの代金になってる為、サヤ達が最初に目をつけた場所よりも半分以下の金額になっていた。

土地だけ買って、家を後から購入して作る人もいるのだが、家を一から作るとなると、頼んだ大工職人によっては、セットで購入するよりも高くなる場合があるので、基本はあまりオススメではなかったりするのだが……


「決めたわ。私、ここを買うわ」


サヤは契約書にアッサリと自分の名前を記入して、契約書とその契約書に書かれた代金を職員に渡した。渡された職員は信じられないものを見るような目でサヤを見ていた。


「お母さん!?待って!!?」


「いくらなんでもここは……!?」


ラナとシアがサヤを止めようとするが、サヤは笑みを浮かべて2人の愛娘の顔を見て


「大丈夫よ。全部お母さんに任せて、あなた達は3日間だけアロマさん達の所で待っててね」


と、そう言い聞かせた。2人は若干戸惑いはしたが、大好きなお母さんの言葉を素直に聞き入れる事にした。次に、サヤはディアスの方を振り向く。


「という訳ですから、しばらくこの子達を預かってもらえませんか?」


「それは全然構わないが……いいのか?本当に?」


「大丈夫です。私にはコレがありますから」


サヤがそう言って取り出したのは……「初めての大工入門」「初めてのお家改造入門」「初めての日曜大工入門」の3冊だった。

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