12.明るみになるスバルの暴行
エマージェンシーチェックにより、映し出された映像。そこから映し出されたのは本当に酷い物であった。
「ごちゃごちゃうるせぇ!」
「お前が勝手に評判が下がるのはいいが、それに俺も巻き込むじゃねえよ!俺はいずれ勇者になってのし上がっていく男なんだからよ!」
そんな言葉を吐いてエリナを暴行していくスバル。エリナから話を聞いていたとは言え、その非道な行いにサリーは思わず目を瞑ってしまう。コタローだけは、その事実を目に焼き付けるようにジッと見つめていた。
「今後余計な事は言うなよ。もし喋ったらこれ以上に痛い目にあわせるからな」
ようやくエリナへの暴行を終えたら、そう言い残して立ち去る。そして、エマージェンシーチェックによる映像はこれで終わった。
「さて……スバル君。もう言い逃れは出来ませんよ」
「うぐっ……!?」
ここまで確かな証拠が出たら、最早何も言えず言葉にならない呻きをあげるスバル。
「本来なら冒険者証を剥奪して二度と冒険者を名乗れないようにするのが1番なんですが……」
「なっ!?待ってください!?それは……!!?」
この世界において、冒険者という存在は非常に大きい。冒険者稼業をして貴族に成り上がっていった者もいるぐらいに。
が、大きい分リスクも更にデカい。冒険者証を剥奪されるのは、それだけ問題行為を起こした証だ。しかも、冒険者証剥奪された事はある方法によりみんなに知れ渡るようになる。もし、冒険者証剥奪となれば、誰も彼を雇ってくれなくなり、無職のままで永遠に過ごす事になるだろう。スバルはそれだけは避けたかった。
「まぁ、ですがまだ若く初犯という事もあるので、罰を受けるだけで許すとしましょう」
「本当ですか!!?」
スバルはコロナの甘すぎる判断に喜色の笑みを浮かべるが、10年の付き合いがあるサヤには分かっていた。コロナは笑顔だけは浮かべているが目だけは笑っていなかった。あの顔は、絶対悪どい事を考えてると……
「では、スバル君は罰としてエリナさん達への慰謝料金貨50枚分稼ぐまで報酬なしで働いてもらいます」
「はっ……!?金貨……!?50枚……!!?」
金貨50枚。それは、節制しながら暮らせば一生は過ごせるかもしれない額だ。そんな額を新米冒険者がそうそう稼げるはずがない。
「そんな……!?いくらなんでも金額がおかしいだろう……!!?」
「いえ。おかしくないですよ。まずはエリナさんへの暴行。先程の映像から見てもエリナさんの怪我相当なものです。それを治療するのと、彼女の精神的な被害を考えたら金貨20枚相当はするでしょう」
それから、コロナは次にチラッとコタローとサリーを見る。
「次に、コタロー君とサリーちゃんが見捨てられた慰謝料が金貨20枚」
「なっ!?それは!?暗黙の了解で……」
「そうですね。見逃されてますね。ですが、2人は生きてますので、その時の慰謝料請求は出来るんですよ」
「んなぁ!!?」
まさか自分達の慰謝料まで含まれてると思わずコタローとサリーは驚く。そして、更にトドメと言わんばかりのニッコリ笑顔でコロナは
「後、ギルドがこの問題に仲介した仲介料金貨10枚いただきます。これは、冒険者規約にも記載されてますよ」
「んなぁ!!?」
確かに、冒険者規約には、冒険者同士のこういったトラブルが起きた時、ギルドが仲介した場合、ギルドが仲介料として金貨10枚貰うと記載されていた。
というのも、毎回毎回冒険者同士のトラブルが多発して、その度に冒険者ギルドが仲介していると、ギルド受付をしている者達の仕事が増え、受付を辞める者がどんどん増えていった為、こんな規約が増えたのだ。
「以上です。もしそれが嫌なら冒険者証剥奪になりますがどうしますか?」
「うぐっ……!?」
金貨50枚まで報酬無報酬か、それとも、永遠に無職で過ごすのかの二択を迫られるスバル。
「あら、金貨50枚なんて簡単に稼げるわよ」
「なっ!?それは本当か!!?」
スバルが自分達の恩人への言葉遣いにコタローはムッとなるが、サヤは特に気にした様子もなく
「簡単よ。スタンピードを一つ潰せばいいわ。そうすれば金貨50枚どころか、その倍も稼げるわよ」
「なっ!?そんなの無理に決まってるだろう!!?」
そう。そんな事が出来るのはサヤぐらいのものだ。自分をバカにしてる。その態度にスバルは苛立った。そもそも、サヤさえ現れなければ今回の事だってうやむやに出来たはずなのに……
スバルの逆恨みの怒りは燃え上がり、火事場の馬鹿力でコタローの拘束を振り解き、スバルはまっすぐサヤに向かう。
「お前さえいなかったらぁ〜ーーーーーーーー!!?」
スバルはサヤをぶん殴ろうとサヤに向かう。エリナは「危ない!?」とサヤに呼びかける。コタローとサリーも、サヤの強さを知ってるとは言え、エリナと同じ表情になってしまう。
しかし、長年付き合いがあるコロナだけは……
(あぁ……余計な事しなかったら痛い目にあわずに済んだのに……)
と、心の中で呟き溜息をついた。
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