9.エリナへの暴行
コタローとサリーを置いて逃げ出したスバルとエリナは、その後すぐに見つけた馬車に事情を説明し乗せてもらい、スタンピードから距離を離す事が出来た。馬車に乗れたおかげで、エリナ達は夕方には「テリュカ」に着く事が出来たが、やはり、エリナは2人の事が気がかりで
「ねぇ……ギルドにスタンピードの事をちゃんと説明しようよ……!」
エリナはスタンピードの事を説明したとしても、2人が無事に帰って来る事はないとは思っていた。しかし、それでも、2人への罪悪感からそう訴えずにはいられなかった。
しかし、スバルは……
「あぁ?そんなの言う訳ないだろ。そんな事したら俺の評価や評判が悪くなるだろ」
スバルは今回スタンピードにはあってないとギルドに説明するつもりでいた。もし、説明したら自分が2人を置いて逃げ出した事も説明しなければならない。もしそうなれば、罪に問われる事はなくとも、彼の評価や評判は下がるのだけは間違いない。
「だいたい。説明したって無駄さ。2人は助からねえよ」
「それは……!?分かってるけど……!?それでも……!!?」
エリナは胸の奥に渦巻く罪悪感から、早くこの事をギルドに伝えたい想いでいっぱいだった。例え、2人が無事に助からなくても……2人が自分の事を恨んで死んでいったとしても……これが偽善行為だと言われても……
だが……
「ごちゃごちゃうるせぇなぁ!!」
バキッ!!
「きゃあぁ!!?」
スバルはエリナの顔面を思いっきり殴りつける。その後数回エリナを殴りつけ、エリナは耐えきれず倒れこむ。しかし、その後もスバルは容赦なく、倒れたエリナに何発も蹴りをくらわす。
「うぐっ……!?かはぁ……!?あぁ……!?」
「テメェが勝手に評価が下がるのは構わねえけど!それに俺まで巻き込むんじゃねえよ!俺これから勇者になってのし上がってく男なんだからよ!!」
スバルはそう叫び、何発もエリナを痛めつけた後、ようやくそれを止めて立ち去ろうとするが、最後にエリナの方を振り返り
「今後余計な事は絶対に言うなよ。もしなんか喋ったらこれ以上に痛い目にあってもらうからな」
スバルはそう言い残して去って行った。残されたエリナは悔しさや悲しさや怒りでごちゃ混ぜになり、涙を流し続けた。
「そんな……!?酷い……!?スバル君がそんな事を……!!?」
エリナの話を聞いたサリーは怒りと嫌悪をあらわにした表情を浮かべていた。コタローはずっと静かに黙ってエリナの話を聞いていたが
「……この事を全部ギルドに報告しよう。だから、エリナも一緒に来て」
「そんな……!?待って……!?エリナさんを早く治癒院に運ばないと……!!?」
サリーはまだ新米治癒術師である為、エリナの傷をある程度は治せたものの、まだ他にも残された傷は多かった。早く治癒院へ連れて行かないと、エリナに大きな傷跡が何ヶ所も残る可能性があるし、まだ自分じゃ治療出来てない箇所だってあるかもしれない。
「分かってる。今はエリナの事を最優先にするべきだって……でも……許せないんだッ!!!」
コタローの怒気をはらんだ叫びに、サリーとエリナは同時にビックリして肩を震わす。まだ、コタローとは短い付き合いの2人だったが、こんなにコタローが怒ったのを見るのは2人共初めてだった。
「僕とサリーの事は仕方ないよ!あの状況であぁいう判断しかとれないのはよく分かってるし!でも!エリナの事は違うだろ!?エリナの事は間違いなくやっちゃいけな事だ!?だから、僕は絶対にスバルを許す事が出来ないッ!!!」
「コタロー君……」
「コタロー……」
このパーティーはまだ短いとは言え、ちゃんと仲間として上手くやっていると、スバルを中心にしっかり出来ていると思っていたコタロー。しかし、それはこんな形で酷く裏切られた。それがコタローには1番許せなかった。
「……分かった。コタローの言う通りにする」
「エリナさん!?でも……!?」
サリーはエリナの事を考えて反対意見を述べようとするが、エリナがそれを首を横に振って止める。
「いいの。これが……2人を置いて逃げ出した私の唯一の贖罪だから……」
「エリナさん……」
エリナに真剣な瞳でそう言われてしまい、もうサリーに次の言葉を紡ぐ事が出来なかった。
「行こう。ギルドへ」
エリナの想いを受け取ったコタローは、サリーと一緒にエリナに肩をかすようにして、3人でギルドに向かった。
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