第195話:繰り返す先へ 12
俺の脳内ではぐるぐると考えが回る。
それとともに、あれだけの致命傷だったチヨがこうして生きていることも嬉しくて。やり直しているからであって、元々そのような傷を負う前へと戻っているのだから生きているのは当たり前でもあろうと思う冷静な自分もいる。
決して、互いに記憶にずれがないか確認のために
だけど、やり直しの時には俺だけがやり直しをしていたのだから、チヨが記憶を残して今ここにいるのがおかしくて。
まさか、俺以外にもやり直す経験をしている人が他にもいて、今回はチヨがそうであったということだったりするのだろうか。
……いや、違う。
俺は、あの
<戻しているのは私じゃないからね?>
<
あれらが本当であれば……。
やり直す際に彼女と会うから、彼女の手によって俺はやり直しているのかと思っていた。
いや、
だとしたら、今回のようにチヨやチヨ以外の誰かが俺と同じようにやり直しているという仮定はおかしい気もする。
だが、実際にチヨが記憶を持って俺の前にいる。
それだけは確かであって、俺と同じくやり直してくれていることがとても心強かった。
始まってすぐに知識を共有できる。
だから、協力者を得よ、というあの狐面の言葉の通り、チヨには協力者になってもらうことにした。
……が。
「う~ん? あたい、よくわかんないよ?」
チヨは。
鍛冶以外、からっきしであったことを、忘れていた。
世界がどうなろうとそこまで気にしない。
今を生きていられるならそれでいい。
そのような、あまり壮大なことを考えずに、のんびりと自分のやりたいことをやる性分であった。
「じゃあなんであの時。前に出た。死ぬことくらい分かっていただろう」
「んー? あたいがいっくんを助けたかったから、かな、かな!」
だけども。
俺にとっては、彼女が傍にいるということが、とても心強かった。
心強かったからこそ、彼女を今度は護ろうと、護ろうと思って――
「おめぇのせいで、チヨちゃんが死んじゃっただろうが!」
『焔の主』は圧倒的で。
その背後で『縛の主』が俺を憐れんでいるこの光景。
チヨを助けようと『焔の主』から逃げた結果が、逃げている途中、俺を護るために『焔の主』の一撃を俺を庇って受けて死んでしまったチヨが目の前にいる。と言う、結果だ。
どうしたら、どうしたら俺はチヨを助けられるのだろうか。
チヨを、『焔の主』からどうやって護れるのだろうか。
「『焔』に、勝てる程には、まだ育たないか」
そう思うなら、なぜ助けなかった。
『焔の主』と同列なのだから、助けることだってできたはずだろう。なぜ、味方をしてくれなかったんだ、夢筒縛。
そう思いながら、夢筒縛への怒りを溢れさせながら、俺はまた白い世界へと。
「ま~、あの子がああなったのは、私の気まぐれではあるんだけどね? 私はあの子を協力者としてもそこま~で役には立たないと思うわけ」
狐面が、その仮面の下で明らかに呆れていた。
なぜ貴方は、チヨを俺と同じようにやり直せるようにしたんだ。
「ん~? あの子が可哀想だったから? ま~、チヨちゃんだっけ? あの子に関してはただそれだけ。あんたと輪廻を合わせただけだから、やり直せるようにしたっていうより、あんたがやり直したら総じてあの子もやり直すようになったってこと、かな~」
待て。つまり……
「いっくんっ! 無事だった!? 大丈夫だった!?」
いつもの牛乳瓶が「奴隷をやろう」と言うから素直にもらってとっとと前回と同じようなやり取りで俺の性癖に引いて去ってもらってすぐに俺の身を心配するチヨ。
俺のことより、自分のことを心配しろと言うのに。
だが、狐面の巫女装束が言っていたことは本当だった。
チヨは、俺と同じく、またやり直しを経験していた。
だが、協力者とはなりえない。
だとしたら、どうしたらいいんだ。
協力者が欲しい。
でも、その協力者はこの世界を護るための協力者であり、チヨを護るための協力者ではない。
それから俺は、何度も何度も。
チヨとともにやり直しを経験した。
今ではもう、夢筒縛がなぜ俺を食べようとするのかとかなんてどうでもよくて。
チヨを護るためにはどう動けばいいのか、その一点を必死に考え行動する。
何度もチヨを失い、時には致命傷を負わせては、やり直した。
どれだけやり直したのか、どれだけ繰り返したのか。
何度やっても上手く行かない。
時には『焔の主』に罠を張って陥れ。相対して倒してみようとした。
時には夢筒縛に手伝いを要請し、『焔の主』を倒してみようとした。
『縛の主』の威光で、チヨには近づかないようにしてもらった。
チヨを表世界へ逃がして、一般人に溶け込ませてみた。
チヨを奴隷のままにしてみた。
チヨを奴隷として売ってみた。
チヨを。
チヨを……
チヨを…………
チヨを――
――何をやっても、チヨが、死ぬ。
チヨが死ぬのは運命であって、チヨは『焔の主』に殺されることが宿命付けられているのではないかと、本気で思うようになってきた。
チヨを何とかして助けたい。
そこで何度も繰り返しているから、俺はそこから先に進めなかった。
チヨを護るには他にも協力者がいる。
なるほど。狐面の巫女装束が言っていたのは、こういうことか。
……いやいやおかしい。どれだけの協力者が必要になるんだと。
短い時間で、チヨを生き残らせることと夢筒縛の事情を知ることと、この二つを達成しようとするには、それこそ何か大きなきっかけや大幅に出来事を変えなければならないのではないだろうか。
それを俺一人で何とかできるのか?
できるわけがない。
だから、詰んでいるのだと。
やり直しのあの時から、チヨが『焔の主』に狙われるまで、あまりにも時間が足りない。
その短時間で行えることなんて、せいぜい俺が世界を相手に大量虐殺でもしてみるかくらいのことだ。裏世界では俺より強い奴は多い。ならば表世界でならばやれはするだろう。だが、やってどうする、どうなる。やり直しが出来るのならやってみるのもありかもしれない。
殺戮してみるのも……意外と、楽しいかもしれない。すっきりできるだろう――
――いや、そんなことをしても意味がない。
なんにせよ、時間がない。
すぐにでも『焔の主』が来る。すぐにチヨを助けなければいけない。
逃げても逃げても追いつかれる。遠くへ事前に逃がしても見つけられて嬲られ殺される。奴隷として売っても結局買われて同じこと。
迷走してしまったことは分かっている。
チヨも迷走してしまったからか、酷く疲れてしまっていた。
そりゃそうだろう。
俺はチヨを都度助けられずに殺される様を見ているだけだ。
チヨはそうではない。実際に殺されているのだ。
死んで生き返る。
それは、何度も殺されているということでもあり、恐怖以外のなにものでもないのではないだろうか。
だから、助けたい。
チヨが死なないように。『焔の主』に殺されないように――
「い……いっくん……?」
じゃあ。
俺が、『焔の主』より先に。
殺してしまえば、いいんじゃないか?
そう思った時にはすでに。
俺はやり直しの最初の時点で。
チヨの腹部を、突き刺していた。
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