転生

三村 薔

来世

 下校の道で、未華子は町子の話を、ずっと黙って聞いていた。

 冗談だろ、と未華子が確かめるために声に出して訊いた次の瞬間には、町子はトラックの前に飛び出して実行していた。

 ブレーキの音、衝突の音。未華子は身体を裂かれるような衝撃を受けて、見た光景をすべて頭のなかの闇へしまいこんでしまった。意識も一時的に落とした。

 病院で目覚めてから町子の死を知らされても、未華子には現実感がわかなかった。そう感じることで、なんとか彼女の世界は保たれた。

 ただ、このことだけは周囲に伝えた。

「町子、転生を信じて死にました」


 未華子は学校に行かなくなった。両親は娘の心を癒やそうと手を尽くしたが、彼女は余計なお世話だと突っぱねた。

 趣味の執筆に、未華子は明け暮れた。町子を喪失したことが彼女を突き動かしていた。痛みをくらい情熱に変えて、物語を必死に紡いだ。

 ある日町子に似た少女を見かけ、未華子は町子を主人公にした物語を書くことを思いついた。

 まるで天啓だった。構想は着々と進み、未華子の頭は冴えすぎて、眠れず目の前がぼんやりするほどだった。

 そして執筆に取り掛かった。物語には自分も登場させる。生前町子がやりたいと言ってたことを、すべてつめこんだ物語だ。彼女の最高傑作だった。

 彼女たちは物語のなかで幸せになった。未華子は満たされていた。この幸せを、町子にも分けたかった。

 完成した物語を、SNSに掲載した。

 どのくらいこの物語がネット上に残ってくれるかは、未華子にもわからない。

 全文を掲載する作業が終わったとき、朝焼けの光が未華子の部屋に差し込んだ。

 保たれていたものは、音もなく崩壊した。

 未華子は窓を覗いてほほ笑んだ。

 彼女は家を出た。

 来世へ向かって、歩きだした。

 


 

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転生 三村 薔 @lesoiseauxdenuit

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