第54話 人質。

りんご事、木野 りんが人質になった!

大きい柚葉から聞かされ、俺は驚いた。

まあ、それ以上に驚いていたのは、この高校の非常勤講師の尾形 香織(旧姓草野)ですが。



「松塚さん!どうゆう事なの!」

「私にも詳しくは分からないんです。ただ、りんごが正門前でビラ配りしていたら、いきなり男の人に拉致されたと」



柚葉は友達のりんごを心配そうに、草野に話す。

そんな草野は慌てた様な表情をすると



「正門の方ね。ありがとう教えてくれて」



慌てる様に草野は俺たちを置いて、正門の方へと足早に行った。




「柚葉、りんちゃん大丈夫なの?」



由奈は木野 りんとは面識があり、かなり心配そうに柚葉に話す。



「ママ、それもわからないのよ。私、りんごが心配で‥‥‥」



柚葉は涙目になりながら、俺と由奈に話す。

そんな柚葉に俺は



「心配ないよ。必ず助かるから」

「本当に?お兄さん‥」

「ああ、大丈夫だ」



柚葉の頭に右手を軽くポンと置くと、俺は柚葉の頭を軽く撫でた。

そんな柚葉は小さくコクリと頷くと、少し笑顔を見せたが、やはり心配そうな顔をする。



確かに今の所は大丈夫のはず‥‥‥

けどなんなんだ?この左腕の違和感は?

嫌な感じがする‥‥‥

まだ、あの木野 りんを助けた時の傷が癒えてないせいなのか?

それとも虫の知らせ的ななにかか?

そんな事うだうだ考えていてもしょうがない。

兎に角‥‥‥



「兎に角、俺たちも正門へ!」

「そうね」

「うん、お兄さん」



俺たちは草野の後を追う様に、正門へと向かった。




◇◇◇




正門の前では警察が人が近づかない様に規制線を張っていた。

そんな正門から少し離れた壁を背にして、数名の警察に囲まれた男女が立っていた。

女はメイド服を着た木野 りん。

男は身長180ぐらいの背広を着たいかにもサラリーマン風の男。

その男は木野 りんの首に左腕を回し、右手にサバイバルナイフを木野 りんの顔近くでちらつかせていた。



「それ以上近寄るな!この女がどうなってもいいのか!」

「馬鹿な真似はよすんだ!それをこちらに渡しなさい!」

「警察なんか信用できるか!バカヤロウ!」



ありふれた犯人と警察のやりとりが飛び交う。

そんな中、木野 りんは涙を流しながら、恐怖で声が出ないくらい体を震わせていた。



『誰か‥助けて』



心の中で叫ぶのがやっとの木野 りん。

そんな姿の木野 りんを遠目でしか見る事が出来なく、イラつく草野。



誰かあの子を早く助けて



そう心の中で叫ぶ草野に追いついた俺達は



「草野!いったいどうなっているんだ!」

「あっ!竜君。それが‥‥‥」



草野が近くにいた他の先生から聞いた話だと、近くのコンビニに入った強盗が逃げて、警察に追われている時に、正門近くでビラ配りをしていた木野に目が行き、木野を人質に取ったと。

ただ、強盗犯はかなり興奮状態にあり、人質になにをするか分からないとのこと。

しかも最悪な事に、犯人が背にしている壁の上には、有刺鉄線が張り巡らせている。

最近、学内に不法侵入があり壁の上にもと取り付けたのが裏目に出てしまった。

これでは壁の上からは犯人を取り押さえることが出来ない。



「お前ら!逃げる車を用意しろ!」

「ま、待て!話し合おう!」

「待ってなどいられるか!早くしないとこの女はこの様になるぞ!」



男は木野の着ていたメイド服の右脇腹辺りの服にサバイバルナイフを引っ掛けると



「ビッ、ビリリリリ!」



服を切り出した。

服を切られた木野。その切られた服から少し下着がチラつく。



「い、い、いや‥‥‥イヤアアア!」

「次はこいつの体を切り刻むぞ!」

「まあ、待て!わ、わかった!少し時間をくれ!」

「早くしろ!」



警察は犯人の要求を呑むつもりだろうが、多分時間稼ぎだろう。それはこの場にいた皆が思っていた。ただ俺だけを除いて。



ドックン!‥‥‥


『なあ!なんだ!左腕が疼く‥‥‥どうして‥‥‥えっ!』



マジ‥‥‥かよ‥‥‥



なぜか分からない。どうしてか分からない。

ただ今俺の左腕から


小さい柚葉の気持ちが‥‥‥

大きい柚葉の気持ちが‥‥‥

由奈の気持ちが‥‥‥

木野の気持ちが‥‥‥



俺の心に流れ込んできた。

木野を助けたい思い。

木野が助けを求める叫び。



どうして俺は皆んなの気持ちが‥‥‥



そして俺は木野りんを助けたあの日、病院の先生からある事を告げられていた事を思い出していた。

左腕の怪我による後遺症によるものの、いわば服効果みたいな物を。




















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