第38話 にいに。

地面に向けて落ちる俺達三人。


なんなんだよこれは!まるで‥まるで‥スローモーションみたいじゃないかよ!


そう、俺の目の周りがまるでスローモーションの様にゆっくりと動いていた。

一瞬俺は驚くが、これならいける!と気持ちを切り替えた。


そして、さっき見た飛び出ているダクトに両足をうまく乗せることができると、俺は思い切りダクトを蹴った。

すると、俺達の落ちる角度が変わり、テントの屋根に向かって落ちていく。

俺はやった!と喜んだ。が‥


このまま落ちると女性が串刺しになる!


屋根の上には直径2センチ、長さ50センチ程の鉄製のポールが何本か支柱から立っていた。

俺は左腕の出来る限りの力で女性を左側に放り投げる。

そして少しでも柚葉を護る為に、俺は背を地面側に向け両手で柚葉を抱きしめた。

テントが平坦に貼っていたので、テントから転げ落ちることはない。

先にテントの布状の屋根に落ちた女性は、屋根の上でバウンドして止まり、気を失う。


そして‥俺は‥‥‥



「グサァ!」

「!アアアアアア!!!」



左腕の肩から少し下のところから、鉄製のポールが勢いよく突き刺さる。そして俺はポールが突き刺さった状態で、テントの屋根に落ちた。

そんな光景を見ていた人達は一瞬なにが起きたかわからないでいたが、一人の女性が今の俺の姿を見て悲鳴をあげる。



「きゃあああ!」

「なにが起きたの⁈」

「おい、あれを見ろよ!あいつ大丈夫なのかよ!」

「人がポールに突き刺さった!」



誰もが俺の姿を目にして、悲鳴や驚愕の表情をしていた。

それは翔先輩と明菜さんも同じ。



「フミ!柚葉!」

「い、いやあーーー!フミちゃん!柚葉!」



叫ぶ二人の声が俺の耳にかすかに聞こえた俺は何とか、気をうしなわずにすんだ。

だが、テントは徐々に俺の流れた血で染まっていく。



「あ‥あ‥あ‥うっ‥う‥」

「にいに、にいに」

「あ‥う‥ゆ‥ずう‥は‥大丈夫か‥」

「にいに、にいに」



柚葉はかすり傷ひとつなく無事で、俺のことをいつもの様に「にいに」と笑顔で呼んでくる。

女性の方は気を失っているが無事みたいだ。

俺は二人の無事を確認して、無事だとわかると、だんだん自分の気が、意識が薄らいでいった‥‥‥。

その中で柚葉は俺を呼び続けてた。


「にいに」‥‥‥‥‥‥

「にいに」‥‥‥

「にい‥」‥

‥‥‥






俺が次に気づいた時は、病院のベッドの上だった‥‥‥。




◇◇◇



「あの時のフミちゃん、私もうダメかと思ったわ」

「俺もだよ。けどあいつは柚葉を救ってくれた」

「ええ、あれから柚葉、以前よりもフミちゃんに懐く様になったのよね」



明菜さんが昔を思い出しながら言うと、翔先輩、何か浮かない表情をして、



「けど、いくらフミに柚葉が懐こうが、あいつには、いや他の男には柚葉はやらん!」

「あなたったら。けど柚葉、今のあなたの言葉を聞いたらなんて言うのかしらね。もしかしたら『お父さん大嫌い』なんて言うかもね」

「うっ!。ま、まあ柚葉はそんな事はいわない。うん。言わない。言わない」



翔先輩、自分に必死に言い聞かせてますよ。

そんな翔先輩を見た明菜さんは、いつもの笑顔でクスクスと笑ってます。

そんな風に、昔話をしていた頃、俺こと竜宮橋 フミはと言うと、その助けた柚葉から、



「お兄ちゃん!聞いているの!」

「はい(反省)」



♪助けた亀につれられて〜♪

ではなく、

♪助けた柚葉に説教されて〜♪

の俺がいました。



そして、大きい柚葉の学園祭の日がやってきた。
















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