第37話 ヒーローなんていない
俺は五階へと駆け上がる。
そして、息を切らせながら五階に着いた俺は急いで女性を探すが、見当たらない。
近くの店員に聞くと屋上の扉がある方へと行ったと言う。
俺は簡単に事の説明を店員に言って、警察を呼ぶように頼んだ。
そして、俺は再び女性を追う。
「この先は行き止まりだ!そこで捕まえられる!」
俺は屋上の扉がある方へと走り、そして‥
「ちっくしょおおお!なんでこんな時に給水塔の点検なかするんだよ!」
屋上の扉の前には、給水塔点検中の立て看板が立っていて、扉の鍵は閉まってなく、扉が開いていた。
俺は屋上へと走り込むと直ぐに女性を探した。
「いた!」
その女性は給水塔に掛けてあったハシゴを、高さ1.5メートルある落下防止の金網のフェンスに掛けるとハシゴを登り、フェンスの外側へと移った。
俺も女性の後を追う様に、女性の使ったハシゴを登ってフェンスの外側に行く。
そしてフェンスの外の足場は巾が1メートルほどしかない。つまりは直ぐ隣にいけば、五階から地上へと死のダイブだ。
そんな場所で、俺は女性を説得する。
「その子を返すんだ!」
「いやあ!この子は私の子よ!」
「頼むから、その子を返してくれ!」
「いや!この子は‥この子は私の子!」
「違う!その子は明菜さんと翔先輩の子だ!だから頼む!その子を返してくれ!」
「いや‥いや‥いやあ!この子は‥この子は私の子よ!返さない‥返さない‥返さない!」
女性が着る白いワンピースと長い髪が風でなびく。
風は吹くたびに女性の足をふらつかせる。
幸いなことに柚葉は気を失っているのか暴れたりしないでいた。
そんなやりとりを女性と俺がしていると、地上では俺達に気づいた人達が集まりだした。
「おい!あんなトコに人がいるぞ」
「飛び降りるきか!」
「だれか早く警察を!」
「なんであんな‥」
心配そうに見上げる人達。
だが俺はそんなのには気づかず、女性に柚葉を返してくれと話す。しかし女性はまだ拒む。
そして俺は心の中で、
なんでこんなドラマみたいな事、俺の目の前で起きるんだよ!柚葉だってなんの関係もないのに。こんな時、ヒーロー物ならさっそうと現れて助けてくれるのに‥‥‥現実はそうはいかないのかよ!ちくしょう!
「柚葉ーーーーっ!フミーーーーっ!」
俺はこの掛け声にハアッ!とする。下を見ると、明菜さんをおんぶした翔先輩が居た。
「柚葉‥柚葉‥柚葉‥」
心配そうに上を見ながら柚葉の名前を連呼する明菜さんは、翔先輩の背中から降りると、少し右足を引きずりながら、そして上を向いて叫ぶ。
「お願い!柚葉を‥柚葉を返して!‥お願い‥」
その場に座り込み両手で顔を隠すと、涙を流しながら「お願い‥柚葉を返して」と呟く程の声を出しながら。
そんな明菜さんの肩に手をそっと置く、翔先輩が言う。
「大丈夫だよ明菜。必ずフミが柚葉を助けてくれるさ。なんたってあいつは俺達を結びつけた天使なんだ。今度はあいつが柚葉のヒーローになってくれるから」
「‥‥‥フミちゃん‥柚葉を助けて‥」
そんな二人の姿を上から見た俺は、
なに考えていたんだよ俺は!今、柚葉を助け出せるのは俺しかいないだろうが!なんでこんな弱気になったたんだよ!
そう心の中で呟いた時、俺の左腕の古傷がうずいた。
なんだ!ツッー!なんでこんな時に‥‥‥
そして腕の痛みと同時に頭の中で何かが浮かび上がる。
なんなんだこの感覚。大丈夫って?自身をもてって?ハアッ!‥‥‥そうだよな。俺の犠牲で柚葉を助け出せれば‥。
俺は周りを確認した。すると一階にビニール製のテントの屋根が見えた。
なんとかあそこに飛び移れれば‥柚葉は助かる。だが‥そこまでは四、五メートルはある。どうやって‥‥‥。
俺は周りを再確認する。すると女性の後方約一メートルぐらいで、3階の所に通気用のダクトが五十センチほと飛び出ていた。
あそこを足場に‥‥‥やるっきゃないだろ!
俺がそう考えていた時、
「う、う、う、うわあああーーーーん!ママ!ママ!ママ!」
「柚葉」
柚葉が目を覚まして急に叫び出す。
それに驚いた女性は足をふらつかせる。
その時一瞬、突風が吹き、まるで凧揚げの凧のように女性が着たワンピースを持ち上げ、女性を飛ばした。地面に向けて落ちそうになる女性に俺は「今しかない!」そう思い女性に飛びついた。
すると俺の左腕の古傷がまたうずくと、
どう言う事だよこれは!まるで‥まるで‥
俺は女性から柚葉を奪い取ると右腕で柚葉を抱きしめると、左腕で女性を抱きしめた。
そして‥
俺達三人は‥
地面に向けて‥
落ちていく。
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