第14話 もう一つの罰

「由奈先輩に、もう一つの罰を与える?」


「ああ、そうだ!明菜。あいつは‥フミはするはずだ」




翔先輩は、明菜さんに言った。だがその顔は不安な顔ではなく、寧ろ安心しきった顔で、俺と由奈を見ていた。


そして俺は由奈に、俺と一緒に暮らす罰を受け入れてくれた事へ、一度、頭を下げる。



「俺の罰を受け入れて、ありがとうございます。由奈さん」


「いえ。‥‥‥そうか‥‥‥貴方を‥フミ君を見る度の罪への苦しみ‥私の後悔の心の苦しみか‥‥‥」




由奈は下を向いて呟いた。その表情は少し落ち込んでるようにも見える。

そして暫く下を向いていた由奈は、ゆっくりと顔を上げて、俺の方を見た。

由奈の目と俺の目が合うと、俺は改めて思った。

綺麗な瞳をしている。しかしその瞳はまるで消えかけ灯火の様な瞳。少しでも触れれば、壊れてしまう様な瞳をしている。

だから俺はこの人を‥‥‥

由奈さんを‥‥‥

あの子の為にも‥‥‥


だから俺は由奈の目を見て言う。

由奈を心配するような表情で。



「由奈さん、今の貴女は俺への罪に対して、俺の罰を受け入れてくれましたよね」


「ええ‥‥‥」


「ねえ、由奈さん。由奈さんの俺への罪は、長年の俺への恨みとこの左手の怪我の二つですよね」


「ええ‥‥‥」


「だったらもう一つ、俺は由奈さんに罰を与える事が出来るんですよね?」


「えっ!‥‥‥そうね‥‥‥」



俺は由奈の顔を見て言う。由奈は一瞬驚き、下を向く。そして俺の方を向き直すと、もの悲しげな表情で俺を見る。



「由奈さん、もう一つの罰を与えますが」


「‥‥‥ええ」


「そして必ず、逃げずに実行して下さい」


「ええ‥」


「貴女があの日からの、俺への恨みの十五年間分です!この罰は由奈さんには拒否する事は出来ません!必ず受けてもらいます!」


「ええ、構わないわ‥」



俺が由奈を恨んでいるかのように、強い口調で言うと、由奈は俺の顔から目をそらし、下を向いてしまう。

そんな由奈は、次の罰がどんな罰なのか、不安な顔色が見て取れた。



「由奈さん、もう一つの罰を貴女に与えます」


「‥‥‥」


「由奈さん‥‥‥貴女が幸せになる罰を与えます」


「‥‥‥えっ!‥‥‥今なんて‥‥‥」


「貴女が幸せになる罰です」


「私が‥幸せになる罰‥‥受け入れないわよ!そんなの!私が幸せに‥‥‥」


「由奈さん、貴女には拒否することはできないんですよ」


「だって‥だって‥」


「大丈夫ですよ」


「えっ‥」


「由奈さん、貴女には俺達が‥翔先輩や明菜さん、俺がついてますから。あっと、柚葉も」



俺の横にいた柚葉は、私も?とした表情をしたので、「そうだよ」と優しく微笑むと、仕方ない顔をして、笑顔を見せた。

そして、翔先輩や明菜さんも



「大丈夫ですよ由奈さん。何かあれば俺達がなんとかしますから」


「ええ。そうですよ由奈先輩。私達がついてます」




俺は翔先輩と明菜さんに頭を下げると、2人は笑顔を俺に向けた。



「あなたたち‥なんで‥そこまで‥」


「由奈さん、貴女は十五年、いやそれ以上苦しんできたんじゃないですか。だったらもう幸せになる時が来ても、良いのではないですかね」


「フミ君‥」


「由奈さん、この罰を受けてくれますよね?」


「あ、あ、あ、う、うわあーん」



俺が由奈に言うと、由奈は頷き俺の胸に飛び込んで来た。由奈の目から涙がしだいに溢れでてきた。

俺は由奈を右腕で優しく抱きしめ、微笑んだ。

明菜さんはそんな由奈の姿を見て、涙目になりながら翔先輩を見る。



「うっ、うっ。あなた‥これがフミちゃんが由奈先輩に与える、本当の罰?(涙目)」


「ああ、フミは最初からこれが狙いだったんだよ」


「最初から?(涙目)」


「そう。由奈さんにいきなり『幸せになりませんか』なんて言っても、あの人は絶対に拒否するからな」


「じゃあ、フミちゃんは由奈先輩が拒否するのを最初から知っていた‥」


「それはフミに聞かないとわからないが、あいつの性格知っているだろ『自分の事より他人を優先する』て」


「フミちゃん‥そうよね。だから私達もこうして夫婦になれたんだから(嬉し泣き)」


「だな(笑顔)」



まだ嬉し泣きの明菜さんは翔先輩にもたれて、翔先輩は明菜さんを腕で支えた。

そして俺は、俺の胸の中でなく由奈を見て思った。

あの俺の好きなアニメの歌詞、

『嘆きと悲しみのループを断ち切れ!』

これが今なんだと。













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