第11話 怪我の等価交換
人の苦しみや悲しみは、言葉では言い表せれない程その人にしかわからない。俺の腕の中で俺の胸を泣きながら叩く由奈を見ながらそう思っていた。
そんな由奈に俺は、優しい言葉を、そして由奈の希望になる様な言葉を言う。
「由奈さん‥‥‥今から俺は貴女達を助けます。力になります」
俺の言葉に由奈は泣きながら俺の顔を見上げ
「‥‥‥本当に?‥私達を‥助けてくれるの?‥」
「ええ、必ず!」
俺が力強く言うと、由奈はまた俺の腕の中で泣いた。けど‥その涙は恨んだ涙ではなく、嬉し涙の様に見えた。
そんな俺と由奈を見た、翔先輩達は少し安心した様な感じで俺を見ると、まだ左手を上げたままの俺に、
「フミ‥‥‥お前、早く病院に行った方が‥」
「えっ?‥ああ。ですね」
まだ血が少し出ている左手をまだ上げていた俺が翔先輩に返事をすると、由奈は「はあっ」とした表情をして慌てた様な顔をすると
「私、あなたに酷いことを‥‥‥私今から警察に‥‥‥」
由奈は俺の顔を見て、何か自分の罪を認めたような顔をすると、俺にそう言ってきた。そんな由奈を見た俺はため息をすると、とぼけたように、
「翔先輩!この左手の怪我は俺の不注意で起きた怪我ですよね」
翔先輩と明菜さんは一瞬、キョトンとした表情をするが、何か察したのか
「‥‥‥だな!フミの不注意だよな!」
「そうよね。フミちゃん昔からおちょこちょいな所があるから」
「でしょ!あ〜あ!俺が慌てたせいでナイフの持ち手と刃の所を間違えて握るから、怪我しちゃったよ」
「あなた達‥‥‥竜宮橋君‥‥‥」
俺と翔先輩、明菜さんが言うと、由奈はまだ泣いていたが、目を真っ赤にして、俺達を見てた。ただその由奈の表情は先程より明るく見えた。
「由奈さん。俺思うんですよ。誰もが幸せになりたい。けど、その幸せを掴むには苦労せず掴む人と、苦労して掴む人がいるんです。そして長く幸せが続くのは、苦労して掴んだ人だと俺は思います。いえ、絶対そうです」
「苦労して掴む幸せ‥‥‥」
「ええ。それが今の由奈さんだと俺は思ってます」
「幸せになれるの?私が‥‥‥」
「そうですよ。みんなの力で。ここに居る翔先輩や明菜さん、俺も由奈さんをみんなで幸せにしますよ」
「あ、う、うん‥ありがとう、竜宮橋君‥」
由奈はまた俺の胸に顔を埋めると、嬉し泣きをしていた。
「あ〜、由奈さん。俺の事はフミでいいですよ。みんなそう呼んでますからね」
「う、うん‥‥‥ありがとう。フミ‥君」
「いえいえ。俺も由奈さんの事、由奈さんと呼びますので、て、もう呼んでますね」
「あっ‥‥そうよね‥‥クスッ」
俺の言葉で由奈の心が少しは和んだのか、涙で濡らした由奈の顔に少しの明るさと笑みが戻ったように俺には見えた。
だが‥‥‥
「お兄ちゃんはいいのそれで?」
不安げな表情をして柚葉は、俺の近くにくると言ってきた。
「柚葉。いいんだよ、これで。皆んなが幸せな気分になれば」
「私は幸せじゃないよお兄ちゃん!」
「柚葉?」
「だってお兄ちゃん!怪我してるんだよ!血が出ているんだよ!」
柚葉は泣きそうになりながら俺に言って来た。純粋すぎる柚葉の心には、俺の左手の怪我はあまりにも酷く映っているのだろう。
だから俺はそんな柚葉の頭を右手で優しく撫でると、
「本当にいいんだよ、これで」
「でも‥お兄ちゃん‥」
「柚葉‥‥‥う〜ん、あっ!そうだ!等価交換!」
「とうかこうかん?」
「そう等価交換。一の物からは一しか生まれないてあれ!」
「あっ!お兄ちゃんとこで見たあのアニメだね」
「そう!あの等価交換。柚葉、この俺の左手の怪我はその等価交換だよ」
「けど‥お兄ちゃん。なんの等価交換なの?」
「これは‥‥‥幸せになれる為の等価交換だよ」
「幸せになれる為?」
「そう、1人が幸せになれば、周りのみんなも幸せになれる」
「1人が‥由奈さんが?」
「そうだよ柚葉。由奈さんが幸せになれば、柚葉のお父さん、お母さんだけじゃなく、俺も、もちろん柚葉もみんな幸せになるんだよ」
そう!だから俺のこの左手の怪我はたいしたことない。寧ろ誇りに思う怪我だと思いますよ。痛いけどね。
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