第6話 それから、ちょっかいを出される。



               ◇◇◇◇◇



「おっはよー! 下にかおりちゃん来てるよー」



 みっちり勉強に精を出した土日休みも明けて、やけに声を弾ませた茜の言葉で俺は目を覚ました。



「んー」



 目を擦りながらなんとか体を起こして、軽くステップでも踏むように階段を下りる茜についていく。


「おはよう、そうくん」

「おはよう、かおり」


 しれーっと我が家の食卓に馴染んでいるかおりにも挨拶をして、その隣に腰を下ろす。忘れていた期間があったとはいえ幼馴染だから、馴染んでいるのはデフォルトなのだ。外堀を埋められてるとかではない。たぶん。



「(茜ちゃん、今日もご機嫌だね)」



 手を合わせて、トーストを食べながら茜に視線を送る。



「(……ほんとにね)」



 鼻歌交じりでトーストを食べていた。


「(一昨日の試験、よっぽど出ごたえがあったんだね)」

「(らしいね)」


 そう。茜がこんな調子になったのは、一昨日の推薦入試を終えて家に帰ってきてからだ。


 なんでも内々定ではないけれど、似たようなことを言ってもらえたらしく、それからというもの受験のストレスから解放されてかアホになっている。


 こんなにポンコツになるのなんて、テスト期間になって勉強を始めたもののまったくできなくて焦った挙句、俺に泣きついてきたとき以来かもしれない。それもかおりが転校してきてからはほとんどなくなったので、懐かしくすら感じる。



「じゃあ私、先に行くから! お熱いお二人はゆっくり仲良く来るんだよー」



 これで何かの間違いで受かっていなかったりなんかしたら、反動で死んでしまうんじゃないかと、そのくらいの浮かれようで手早く朝食を済ませた茜はそう言ってリビングから出ていった。たぶん早めに学校へ行って、先生に受験の様子を報告でもするんだろう。


「私たちも早めに行って勉強しよっか?」

「いいね。そうしよっか」


 勉強というとあんまりいい感情は抱かないけれど、教室で彼女と二人で勉強会っていうと感じ方が百八十度変わる気がする。


 さっさと支度を済ませていつもより早めに学校に着き、勉強をするなんていう怠いことをやっているはずなのに、そんな時間が幸せに感じてしまうんだから感情とは恐ろしい。


 なんでこんなに勉強する羽目になっているのかも忘れてしまいそうになる。


「あれ、二人とも今日は早いんだね。おはよう」

「げっ」


 まあ、すぐにその原因は思い出すことになるんだけど。


「いや、自分に想いを寄せる女の子に『げっ』ってさすがに酷くない⁉」

「いや、俺もまさか無意識にそんな言葉が飛び出るとは思ってなかった」


 前まで佐藤にはすごく丁寧に接していた気がするのに、今では雑に扱うくらいがしっくりくるのはなんでなのか。


 普通にちょっかい出してくるからか。


「佐藤さん、何しに来たの? 私たち、今一緒に勉強してるんだけど。昨日の夜そうくんの部屋でやってた勉強会の続きを、朝の教室でやっていた最中なんだけど」

「あ、そうだったの? じゃあ私も混ぜてもらうね!」

「いや、メンタル強っ!」


 そこまでギスギスというわけでもないけれど、先制パンチをかましてそのままマウントをとろうとしたかおりには目もくれず、笑顔で返答する佐藤。


 正直どっちもちょっと怖い。



「まあ、どうせ試験では私が勝って水瀬くんとの一日デート権を貰うことになるだろうから、今日の所は引いてあげるけどね」


 日に日にあざとさが増して言っている佐藤はぱちんとウインクを俺に送って、それからスキップで教室を出ていった。


「……そうくん。勉強するよ!」

「……うん」


 嵐のような佐藤が去って、俺たちはまたシャーペンを持つ手を動かし始める。


 期末テストが終わるまでの間、時々佐藤にちょっかいを出されながらも勉強をするそんな日々は約二週間延々と続いた。




※作者から(2020.09.30)

 就職活動は一段落着きましたが、卒業研究ともう一作の執筆により今しばらく更新ができない期間が続くと思われます。どうぞお待ちいただければ幸いです。

 また、本作はカクヨムコンテスト参加作です。面白いと思って頂けたらフォロー&☆評価を宜しくお願いします。

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なぜだか隣の家の転校生の好感度が高すぎる。 鞘月 帆蝶 @chata_fuji

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