最終話 そして二人は帰ってきた。
◇◇◇◇◇
「なんか、帰ってきたなー」
「帰ってきたねー」
戻ってきた日常、とばかりに俺の部屋で二人、声に出す。
長らくのバスの旅も寝ている間に大半が終わってしまって、結局レクリエーションには参加することもなく、気がつくと学校に到着していた。途中休憩を挟んだ際にはトイレに行ったけれど、ほとんど五時間も眠っていたとは、いやはや疲れとは恐ろしい。
そんなこんなで学校に帰り、それから迎えに来た母さんの車に乗って二人で帰ってきたと、そういうわけだ。
ちなみに今日はかおりの家は両親ともに帰りが遅いらしく、風呂と夕食は俺の家でもう済ませている。
ベットで足をばたつかせながらスマホをいじっているかおりと、ベッドを背もたれにして床に座る俺。そんないつもの光景が、なんだか酷く久しぶりのように感じる。
「ちょいと失礼」
「ちょっ、かおり⁉」
ふいに、かおりが俺の太ももの上に割り込むようにして座ってきた。なんていうかこう、アオハルっぽい。うん。カレカノっていったらこういうものなのかもしれない。
自然と全身が熱くなって、脈動が聴こえてきて、時を刻む秒針の音だけが部屋に響く。
一分か、二分か、三分か。止まっているのではないかとも思えるくらいの時間が過ぎた後に、涼しい顔でスマホをいじっていたかおりが、口を開いた。
「今日、泊まってくから」
「う、うん」
知っている。最初からそういう話になっていた。
「だから……その、一緒のベッドで寝てみる?」
数秒、遅れて言葉が脳まで入ってくる。
一緒のベッドでというのはそれはそのどういうお意味であるのでありましょうか⁉
今まで、そりゃあ泊まっていくってだけでもかなりのことではあったけれど、そういうときはいつも俺は床に敷いた布団で寝ていた。
「一緒のベッドで、と言いますと……?」
正直にも聞き返してしまった俺に、かおりは一瞬はてなマークを頭に浮かべて、それから慌てたように手を横に振った。
「…………ッッ⁉ へっ、変な意味じゃないから! そうくんの変態! むっつり!」
かおりは勢いで俺の上から立ち上がって、一人ベッドに入る。そして掛布団を頭までかぶって、団子になってしまった。
「ちょっとかおり、悪かったって!」
「ふぉふふぃらふぁい!」
「いや、なに言ってるか全然分かんないって」
「…………」
黙り込んで、隙間から少しだけ顔を覗かせるかおり。なんだか小動物っぽくてかわいい。
「……もう、寝よっ!」
「え? それってどういう――」
「――だから変な意味じゃないって言ってるでしょ!」
「冗談だよ」
素直に彼女に従って、電気を消し布団に入る。初めてのようで、でもよく考えてみたら一昨日の夜にも同じベッドで寝ていたことを思い出して、少しだけドキドキが収まる。
「そうくん」
「ん?」
耳元で小さく名前を呼んだかおりが、向きを変えて俺に背を向けた。
そして――。
「そうくんは、ずっとずっと私のなんだからね? ちゃんと覚えといてよ?」
「……ん」
ただ時計の音だけが響く中で、心臓の鼓動音がどうにも収まらなかった。
【第3章 了】
※作者から※
いつもお読みいただきありがとうございます。一応、これにて三章はおしまいになります。最終話と付け忘れたのであとから付け足しました(^^;
修学旅行も終わり、佐藤さんの想いにも一区切りがついたということで章の区切りとしました。前回と変わらず、続きのストックはゼロです。忙しいこともなり、更新できない日も出てしまうとは思いますが、これからも読んで頂ければ幸いです
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