第30話 そして女子たちは、スイーツに群がる。
◇◇◇◇◇
修学旅行の班別行動で京都のいろんな場所を巡る。
どこに行っても趣のある光景が広がっていて、人がたくさんいて、紅葉に包まれた寺はとても美しくて。心に響くものは数多くあったが、それを言葉で表そうとしたら、どれも似たようなものばかりになってしまいそうだった。
唯一差別化して表現できることがあるとすれば、清水寺周辺での土産屋散策くらいだろうか。
京都と言えば八つ橋や漬物、それとあぶらとり紙がぱっと思いつく土産物。他にもきっといくらでもあるんだろうが、とにかく俺が思い浮かべるのはその三つだ。
修学旅行で土産と言えば中学時代、無駄に高い木刀を買ったりなんかして、学校に帰るまで先生に没収される奴がクラスに一人はいた。
そんなことはどうでもいいといえばいいんだけれど、旅行先に来ると普段ならいらないと思えるはずのものがなぜか欲しくなってしまうという謎の現象は、仕方のないことなのかもしれなかった。
現に日向や佐藤は特に可愛くもないティーシャツを買っていたし、かおりに関しては「そうくんにあげるよ!」とか言ってチンアナゴの柄が入ったパンツをプレゼントしてきた。
パンツ一枚で千五百円とか、八つ橋のお土産が普通に三つくらい買える。ありえん。
まあ、そんなこんなで土産を見て回って、他と比べてやけに大きい清水寺を歩き終わると、日もだいぶ落ちてきていた。人気の舞台が改修工事中だったのは少しだけ残念だったけれど、十分楽しめたと思う。
佐藤が舞台近くの地主神社で目を瞑ってゾンビのように歩いていたのも彼女らしくなくて面白かった。修学旅行を楽しめているようでなによりだ。
栄えた細い通りを下って、八坂神社を横目に祇園へと向かう。いや、正しくはここら一帯はもう祇園なのかも分からないが、とにかく人の多い中心部へと足を動かした。
あたりが暗くなってきたところに灯される灯篭には趣があって、昼間とはまた違った良さがある。日本らしさ溢れる街並みに囲まれた小路地を歩いているだけでも、お金を払ってもいいんじゃないかと思えるほどの景観だ。
「この先にさ、行っておきたいロールケーキ屋さんがあるんだよね」
「あっ、あそこ有名だよね」
「この間テレビでやってたとこ? 名前は思い出せないけど」
「あたしも見た。美味そうだったよね」
かおりが言ったのを合図に、他の女子たちのテンションが上がり始める。女子はスイーツに目がないというのはきっと、いつの時代でも普遍的なんだろう。
十分ほどふらふらと歩いて目的の店の前に着くと、俺と亮は外で待っているということになり、女子四人で仲良く店内へと入っていった。
「もう二日目も終わりだな」
「うん」
石のベンチに腰かけて、空に浮かんだ星を男二人で見上げる。
今日一日の出来事を思い出すと、そのすべてが最初からハイライトだったんじゃないかとすら思えてくる。
五時過ぎでも辺りはすっかり暗くて、かおりが転校してきたころに比べると季節が移ろったんだなと、そんなことをふと思う。
修学旅行が終わればすぐに今年が終わって、年が明ければいよいよ三年生になるんだと実感させられる。
ぼうっとしていたら、すぐに卒業になってしまうんだろう。
『水瀬くん、今日お風呂から上がったら、連絡してもらえるかな? さっきの話の続き、したいんだけど』
間の抜けた通知音とともにそんなメールが送られてきたのと同時に、かおりたちが土産袋を提げて店から出てきた。
「どうしたの、そうくん」
「う、ううん。なんでもないよ」
何食わぬ顔でやってきた佐藤は、それからしばらくの間、どこかよそよそしかった。
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