第29話 そして安くてそれなりに美味しく、京都っぽい昼食を食べる。

               ◇◇◇◇◇


「ふぅ……」

「そうくん、親父臭いよ?」

「失礼だなー」


 銀閣寺を一通り見て回ったら、すぐ近くにあるうどん屋へと入り、購入した食券と交換でうどんを受け取って座敷に腰を下ろした。


 よっこいしょ、とか言わなかっただけ褒めて欲しいくらいだ。


「天ぷらうどんも美味しそうだね」

「天ぷらってなんか京都っぽいしね」


 シンプルなかけうどんの大盛りを頼んだかおりが物欲しげに見つめてきたので、仕方なく天ぷらを半分に分けて、かけうどんの上にのっけてやる。


「やった! ありがとそうくん、愛してる!」

「なんか俺への愛が天ぷらよりも軽く聞こえるんですけど⁉」

「そんなことないってー」


 言いながらも、もうかおりの視線はうどんに釘付けだった。


 亮が食べてるカレーうどんにはもうちょっと和っぽいものを頼めばいいのになぁ、とか思ったりもしたが、そこそこ安くてそれなりに美味しく、かつ京都っぽいという点において、うどんは最強なんじゃないかと、そんなくだらないことを考えながらひたすら麺を啜る。


 なんとなく隣に座っているかおりに視線を振ると、中野さんの温玉うどんや佐藤のきつねうどん、日向の肉うどんを少しずつもらっていた。


 佐藤と日向の注文したうどんは、それぞれとても二人らしいチョイスだなと思った。いや、二人らしいうどんってなんだよ。



「――ごちそうさま。ちょっと先に外で涼んでるよ」



 一気にうどんを食べたせいか、汗が頬を伝う。


 俺は食べ終わったうどんをトレイごと返却口において、十一月の涼しい風に当たりに外へ出た。


 外にもうどん屋に来た客用の木製のベンチがあったので、そこに座り込んで涼むことにする。


 もう三か所も回ってしまって、三日間の修学旅行の半分がすでに終わってしまったんだと思うと少し寂しい気持ちになる。


 どこへ行こうかと思いを巡らせて、みんなで話し合っていた時間はそれなりに長かった気がするのに、実行してみると案外あっけなくあっという間に時間が過ぎていった。


 そういうものなんだということは分かっているけれど、もっとずっと、この楽しい時間が続いてくれればいいのにと、そんなふうに思ってしまう。



「やっぱ外、涼しいね」



 ふと、佐藤に声を掛けられた。


「もう食べ終わったの?」

「うん。お腹空いてたからさ」


 店の入り口の引き戸を閉めて、彼女は少し恥ずかしそうに笑う。


 それがつい一月前の彼女からは想像できないくらい様になっていて、思わず見惚れそうになった。


「……佐藤も涼みに?」

「うん。それと、ちょっとお話をしようと思って」

「話?」


 こくり、と彼女は黙って頷く。


「なに? そんなに改まって」

「いや、えっと、その……」


 下を向いてもじもじと口ごもった末に、佐藤は大きく息を吸って、そしてそれをいっぺんに全部吐きだして――。


「あの……」

「うん」


 きっと、さっき何か言おうとしていたその続きだろうか。


 気持ち潤ったまっすぐな瞳で俺を一心に見据えて、続きを吐き出す、が。



「私、――」



「――ふぅー! 満腹まんぷく!」



 あれ、私なにかやっちゃいました? みたいな顔をして。両手を大きく空へと伸ばしながら乱入してきた日向によって、佐藤の言葉はまた、遮られた。

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