第14話 そして彼女は告白される。
◇◇◇◇◇
「――佐藤さん、好きです! 俺と付き合ってください!」
「え……」
放課後。いつものように生徒会室の扉を開けると、なんというかその……気まずい現場に居合わせてしまった。
「ごめんなさい。私、ずっと前から好きな人がいるので、その気持ちには応えられません」
即答。もうすっかり美少女となった佐藤は、苦笑いを浮かべて茶髪の男子にきっぱり言い放つ。結構イケメンっぽいのに。
「ッッ……!」
残念な答えを聞き終わるかどうかのタイミングで告白した男子は振り返り、俺の脇を駆け抜けて部屋から出ていった。
「わ、悪いな。取り込み中に」
「ぜんぜん大丈夫だよ。気にしないで!」
いや、そんな笑顔で「ぜんぜん大丈夫」とか言われちゃうと、さっきの男子がかわいそうになってくるからやめてあげて!
無意識のうちにすごい酷いことしてるよ!
「っていうか佐藤、前から好きな奴なんていたのか」
「ひぇっ⁉」
イケメンくんへの返答を思い出して、俺は疑問を口に出す。
佐藤は声を裏返しして動揺すると、しばらくもじもじしてから目を逸らして言った。
「それはその……あれだよ! 断るための口実というか……」
「そういや最近、よく告白されてるらしいもんな。まあ、こんなに可愛くなったら一気にモテ始めるのも仕方ないか」
「ひぇっ⁉ 可愛い?」
……さっきからその、「ひぇっ⁉」っていうのは何なんでしょうか。
ひどく間抜けな気もするのに、なんていうか……すごく可愛い。好きとかそういうんじゃなくて、見ていて癒されるというか、小動物的な可愛さに近いというか。実際、佐藤は日に日に可愛くなってきて、小動物どころか肉食動物をも上回るほどの勢いで男子からの人気が急上昇中である。
まあ、俺の中では一番かわいいのはかおりだけどね。うん。
佐藤の反応も面白いけれど、今度からは女子に気安く可愛いなんて言わないように気を付けよう。もしもかおりがどこかで聞いたりなんかしてたら――。
「――そうくん……」
「かっ、かおり⁉」
「こっ……こんにちは、藤宮さん。お、遅かったね」
お約束展開すぎる……。
俺があんなことを考えるから心の中でフラグが立ってしまっていたのか。
ジト目で真っ直ぐに俺を見つめてくるかおりに、俺だけでなくなぜか佐藤までも気圧される。
「ちょっとお手洗いに行ってたの。それよりもそうくん、私がいない間に他の女の子を口説くなんてとんだプレイボールだね」
「いやっ、そういうんじゃないからな! あとそれだと試合開始しちゃうから! 多分かおりが言いたいのはプレイボーイだから!」
「…………私がいない間に他の女の子を口説くなんてとんだプレイボーイだね」
「いや、さすがにそれじゃあ押し切れないって……」
「…………」
勢いに任せてミスをもみ消そうとしたかおりだったが、さすがに無理があった。
「藤宮さん。本当に水瀬くんは私を口説いてなんてないよ?」
「そんなの分かってるよ! でもそんな気がないのにそういうことをしちゃうのはもっとダメでしょ!」
「た……確かに」
俺のフォローをしてくれようとした佐藤が、かおりの正論に納得させられてしまう。
「かおり、悪かったよ。今後は気を付けます」
「……分かれば、よろしい」
俺もかおりの言ったことにはぐうの音も出なかったので、ひとまず俺が謝るということでかおりもお許しをくれた。
「よし。じゃあ三人そろったところだし、しおりの製本作業始めようか!」
「うん」
「そうだね」
ようやく生徒会の仕事に入れる。
ほっと一息吐いて、椅子に腰を下ろしたときだった。
ガラガラガラッ、と。ノックもなしに生徒会室の扉が開かれた。
「失礼しまーす。佐藤っていますかー? あ、いたいた。ちょっと二人きりで話したいことがあるんだけど」
さきほど撃沈した爽やかイケメンくんとは打って変わって、話し方からして頭の悪そうな明るい髪色の男が入ってくる。
おい、そのサルみたいなオラオラ歩きやめろ。ダサいことに気づけよ。
「ごめんなさい、また今度じゃ駄目かな?」
「え? できれば今が良いんだけど。こっちも気合入れてきてるし」
いや、気合い入れてそれかよ!
言動のひとつひとつに思わずツッコミを入れたくなってしまう。
「まあそういうことなら……」
佐藤がちらりと俺とかおりに目配せをする。
「分かったよ。なるべく手短によろしく。かおり、ちょっと行くよ」
「え⁉ 行くってどこに?」
「いいからいいから」
がらの悪い目つきで睨んできた男を鼻で笑って、俺たちは生徒会室の外に出た。
なんていうかその……モテるっていうのも、大変そうだ。
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