第11話 そして幼馴染の彼女は嫉妬する。
◇◇◇◇◇
「はぁ……」
毎度のことながら俺のベッドに寝転がっているかおりが、これ見よがしに何度目かのため息を吐く。
学校からの帰り道ではずっと冷たい目を向けられていたし、帰って風呂に入って夕飯を食べて、いつものように部屋にかおりが来たと思ったらずっとこの調子だし。
ため息つきたいのは俺の方なんだけど……。
生徒会ではあれから、それぞれの応援責任者を決めようという流れになった。全校生徒の目の前で応援演説をやらされるアレだ。
そこでかおりはともかくとして、俺はなぜだか佐藤にまで指名された。
結果的にじゃんけんで決めようということになり、俺は勝者となった佐藤の応援に、かおりの応援には茜が回ることになった。
……俺の意見は完全に無視して。
「そういえばかおり、佐藤が生徒会長やりたいっていうんだったら、別に選挙に出なくてもいいだろ」
「なに言ってるの、いやだよそんなの!」
ぷい、と俺から顔を背けて、かおりは続ける。
「だってあの子、絶対そうくんに気があるじゃん! まったく、思わぬとこに伏兵って感じだよ! そうくんの女ったらし!」
「いや、まだそうと決まったわけじゃないでしょ。だいたい俺が佐藤と話すのなんて本当にたまにだしさ」
まあ嫉妬しているかおりというのもこれはこれで新鮮で、そこまで悪いものでもないかもしれない。
頬っぺたを膨らましている横顔も可愛いし。
そんな呑気なことを考えていると、スマホにピコンとメッセージが入った。
『夜分遅くにすみません。水瀬くん、今日は勝手に指名しちゃってごめんなさい。とりあえず選挙が終わるまでの間、よろしくお願いします』
最後にはぺこりと可愛らしい絵文字が添えられている。
佐藤からだ。
「ちょっとそうくん、いつの間に連絡先追加してたの?」
画面を後ろからのぞき込んでくるかおりの髪が顔に触れて、シャンプーのいい香りが鼻孔をくすぐってくる。
「いや、俺も佐藤も一年から生徒会やってるんだから、そのくらい当然でしょ」
いくら彼女とは言えどさすがにクンカクンカと嗅ぐわけにもいかないので、俺は平静を装って、できるだけ平淡に返した。
「ふーん……」
かおりは不満げにして、またベッドに横になる。俺に背を向けて。
「まあでも……かおりが心配するようなことはないからさ。こんなに可愛い彼女がいるんだから、他になびいたりはしないよ……」
俺はかおりの機嫌をなんとか戻そうとそんなこっぱずかしいことを、尻すぼみに声を小さくしながら言った。
「そうくん!」
「な、なに……?」
「顔赤くなってるよ!」
かおりは俺の言葉を聞いて、ベッドを背もたれにしていた俺に後ろから抱きついてくる。
胸を背中に押し付けながら、頬っぺをすりすりと擦りつけて。
いや、そりゃ顔赤くなるって! 良い匂いするし! 胸当たってるし! おっぱい!
…………いかんいかん、取り乱してしまった。
「私だってさ、そうくんが他の女の子になびくなんて思ってないよ?」
暴れていたかおりが落ち着いた声で、俺に言い聞かせるように口を開く。
頬が触れあうかどうかくらいの至近距離で見つめられて、顔がさらに熱を帯びていくのを感じる。
そんな俺にやさしい口調で、かおりは話を続けた。
「彼氏が他の子から好かれるっていうのも、彼女としてはけっこう鼻が高いことだしさ。でもね、その相手が、私が転校してくる前の私の知らないそうくんを知っているんだなって思うと、妬けちゃうんだよー!」
最後には恥ずかしくなってしまったのか声にならない唸り声をあげて、俺の背中にぐりぐりと頭をおしつけてくる。
可愛い。なんだよこの愛玩生物。
俺は振り返って、「よーしよしよし」と犬のようにかおりを撫でる。
ピコンッ。
『水瀬くん、夜遅くにごめんね。ちょっと明日、亮には内緒で聞きたいことがあるんだけど』
俺史上最も幸せな時間を過ごしている中、またもやメッセージが届いた。
今度は佐藤ではなく中野さんからだ。
「ちょっとそうくん、すずちゃんにまで手を回そうとしてるの?」
「いや、中野さんは亮のこと好きなんだろ! っていうか、中野さんは別にかおりの知らない俺のことなんて知ってたりしないぞ?」
真面目なのかおふざけなのか、それともその両方なのか。かおりは「むぅ!」と真っ直ぐに俺を見る。
「そうくん」
「……なんだよ」
「そんなの建前に決まってるじゃん! 本当は彼氏に連絡してくるすべての女子をブロックしてやりたいよ! そうくんは私のものなんだから!」
「お……おう……」
……なんだか、かおりの
ま……まあ、メンヘラチックでも可愛い幼馴染ならべつにいいよねっ!
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