第30話 なぜだか夏休み早々海へ行く。(4)
「おっしゃー海だー!」
おいしい朝食を頂いて、旅館の最寄りのバス停からバスに揺られること一時間と少し。
バス停から見えたビーチにテンションが上がったらしく、亮が砂浜へと続く下り坂を走り出した。
「ほら、早く行こうぜ」
「ちょっと待ちなさいよ!」
亮を追いかけるように小走りになった中野さんを見て、残された俺たち三人は顔を見合わせて小さく笑う。
「(中野さんって、亮のこと好きだよな)」
「(うん。昨日お風呂でその話になって、盛り上がっちゃった。なんでも十年以上想い続けてるらしいよ)」
「(本当、あの子ったら一途よね)」
どうやら女子三人は裸の付き合いでずいぶん仲良くなれたらしい。良いことだ。
「おーい! 早く来いよー!」
目の前の微笑ましい光景に三人でこそこそと話していると、一足先に砂浜まで辿りついた亮たちが二人仲良く手を振っていた。
「……早く付き合えばいいのに」
「だよね」
何も知らない人の目にはきっと、二人はカップルに映っているだろう。
そうではないと知っている俺たちにもそう見えてしまうくらいなのだから。
「まったく、十何年も想い続けてくれる幼馴染とか、漫画かよ……」
「……」
なぜだか隣から冷たい視線を感じて、俺は少し歩く速度を上げた。
◇◇◇◇◇
『知る人ぞ知るプライベートビーチのような海岸。透き通るようなブルーの海に子供も大喜びでした』
『お盆ごろや休日はその小さな砂浜がテントでびっしりと埋まりますが、シーズン初期の平日は比較的人も少なく十分に楽しめると思います』
今日バスの中で、この海水浴場について調べて出てきた口コミだ。
「うわ、すごいよ! 透き通ってるよ、かおりちゃん! 私こんなの初めて見た!」
「でしょ? ここの海、魚も結構いるからちょっと潜るとすぐ見つけられるんだよ~」
水着に着替え終わって、膝下までしかないくらいの浅瀬で遊んでいる中野さんとかおりを横目に、俺と亮はテントを組み立てている。
口コミはどうやら間違っていなかったらしく、七月の平日ということもあってか人はまばら。海水もテレビでしか見たことがないくらいに透き通っていて、家族連れが何組か水遊びを楽しんでいた。
「ったく、俺たちに面倒を押し付けておいて、あんなにはしゃぎやがって……」
その透き通ったオーシャンブルーを目の当たりにして大はしゃぎの中野さんに、亮が文句を垂れる。
「お前だってさっきまではしゃいでただろうが」
「なっ! 一緒にすんなよ!」
喧嘩ばかりしているのに、なんとも似たところのある二人だ。
「おい! ニヤついてんじゃねぇ!」
「しょうがないだろ。ほら、それより完成させちゃおうぜ」
叫ぶ亮をあしらって、テントの四隅に杭を打ち込み固定させていく。
「おまたせ。これはここでいい?」
「あぁ、うん。テントの手前にセットしてくれれば大丈夫だよ」
海の家からパラソルを借りてきた茜に俺はそう答えると、ちょうどテントも張り終わって中に入った。
「にしても暑いな……」
「なんか飲み物あるか?」
俺に少し遅れてテントに入ってきた亮に、保冷バッグから取り出したジュースを投げて渡す。
「サンキュ」
「奏太、私にも一本ちょうだい」
「あいよ」
パラソルを設置し終わって汗を拭った茜にも、ペットボトルを投げた。
「このテント、狭すぎない?」
「まあ持ち運び重視の安いやつだからね」
パラソルの陰に腰を下ろした茜が、テントの中を覗き込む。
中には五人分の手荷物と男二人で、かなり窮屈だった。
「亮、あんたいつまでそんなところにいるのよ。早く海に行くわよ!」
「そうくんも行こ!」
さっきまで海でパシャパシャとしていたはずの二人が、いつの間にやら戻ってきていて俺と亮の腕をつかむ。
「ほら、茜さんも行きましょ」
「ちょ、私はいいって……」
「茜ちゃん、そんなこと言わずに」
三人でパワフルな女子二人に引きずられて、俺たちはきれいな海へと入った。
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