第25話 なぜだかお隣さんがベッドの横に立っていた。
「――そうくん! 早く起きないと学校遅れるよ!」
「んー……ん⁉」
朝起きると、最近俺を避けていたお隣さんがベッドの横に立っていた。
えっと……まずは落ち着いて因数分解をして状況を整理しよう。
昨日は偶然かおりと一緒に帰ることになったけれど、帰り道でも会話はまったくなかった。特に避けられている原因が分かったわけでもないし、元通りになれたわけでもない――はずだ。
俺は息をひとつを吐いて、もう一度顔を上げる。
「なにしてるの! 早く着替えないと!」
「……」
間違いようもない。正真正銘かおりだ。
「……かおり」
「ん?」
ここ数日、俺を避けてきたことがなかったかのような顔をするかおりに俺は続ける。
「最近俺のこと避けてたよね?」
「なっ、何のこと⁉」
かおりは『私、とぼけてます!』とでも言っているかのようにあからさまなオーバーリアクションをとった。
「いやいや、さすがにそれは無理あるでしょ」
「そんなことよりほら! 時間!」
時計を見ると本当に遅れてしまいそうな時刻だったので、俺は引き下がってクローゼットを開く。
「かおり、着替えるから出てって」
「私は気にしな――」
「――俺が気にするんだよ!」
なんというか、まあ前みたいに戻れたのならよかったのか。
久しぶりの二人での登校は早足で、俺がいくら避けられていた理由を尋ねても、かおりは答えてはくれなかった。
◇◇◇◇◇
「一日で仲直りしてくるなんてお前も意外とやるときはやるんだな」
今日も一日があっという間に終わり、帰りのホームルームの最中。
隣の席の亮が、担任の木本の目を盗んで小声で話しかけてきた。
「ま、まあな……」
なんで急にかおりが元に戻ったのかはまったく分からないが、今日一日、かおりは前のようによく話しかけてきたし、昼食も一緒に食べた。
急に避けるようになったかと思えば今度はこのありさまなのだから、女心というのは本当に難しい。
これっぽっちも理解できない。
「お前、どんな魔法使ったんだよ。告白でもしたのか?」
「なっ……そんなわけないだろ!」
突然亮の口から飛び出した告白というワードを聞いて、あの日のことを思い出す。
だいたい、顔も見えなかったあの男子があんな場所で告白さえしなければ、そもそもかおりに避けられるような事態にもなっていなかったというのに。
「おい水瀬と神木、静かにしろ」
「……すみません」
「はーい」
亮が変なことを言ってきたせいで、木本に怒られてしまった。
俺は隣の席に冷たい視線を送るが、亮はそれを受け流すかのようにそっぽを向く。
「それじゃあ今日も気をつけて帰るように。解散」
木本の声で皆が一斉に立ち上がると、亮も「じゃ、部活行くから」とだけ言って行ってしまった。
「そうくん、帰ろ」
「うん」
ここ何日かは落ち着いていた男子の恨めしい視線を、久しぶりに雨のように浴びる。
それらから逃げるようにして教室を出て、下駄箱で靴を履き替えていたその時だった。
突然ポケットのスマホが鳴り響いた。
「そうくん、ちゃんとマナーモードにしとかないと。先生に没収されちゃうよ?」
「すっかり忘れてたよ」
滅多に流れない着信音からするに、電話がかかってきたらしい。
俺はポケットからスマホを取り出し、画面を確認する。
『日向成海』
昨日の今日で、何の電話だろう。
そんなことを考えているうちに、かおりに画面を覗かれていた。
「そうくん、女の子と電話なんてするんだね」
「いや、これはたまたま――」
「――昨日、日向さんと二人でファミレスにいたよね?」
「みっ、見てたのか⁉」
なんで浮気現場を彼女に見られた彼氏みたいな反応をしているのか自分でも不思議ではあったが、なんとなく今はこの電話に出ない方が良い気がして、スマホをマナーモードにだけしてポケットに突っ込む。
「何の電話だったの? そうくん、中学の時も日向さんとけっこう仲良かったよね」
「な……なんでもないよ」
ようやく仲が元通りになったと思ったのに。
大きなため息が口から溢れ出す。
家に帰るまでの間、俺はずっとかおりに睨まれていた気がしてならなかった。
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