──第104話──

案内された場所は俺達が見てきた場所だったが、初めて見た様な反応を返していた。


何の茶番だよ。


人間達は意気揚々と各部屋を案内してくれた。

ネロは魔術の話をされても興味が無い様子で適当に相槌を打ち、ラルフは「すごいねー!」「そーなのー!?」と大袈裟に反応している。

俺は何をどう答えれば良いのか分からず、曖昧な返事しか返せていない。


あれ?

俺達、いつも通りじゃねーか?

……ま、いっか。


しばらくして、あの理科室の様な部屋に足を踏み入れると、人間が説明をする。


「ここでは、宝石に魔法陣を描き込む作業を主にしているな。複数の魔法陣を一つに入れる作業は集中しなければ出来ない代物だからな。」


「そうそう、ここ以外にも同じ部屋が十部屋以上あるんだ。術者が一人じゃないと集中出来ないってヤツもいるからな。」


「一人で作れる数も少ないし……。一日に五個出来れば上等じゃないか?」


「そうだな。複雑だから魔力操作をちょこっとミスっただけでも失敗になる。ま、その分人数がいるから良いけどな。主様のスピードには、誰も敵わないがな。」


「主様は一日に何十個とやるからなー。本当に尊敬するよ。」


ははははは と二人の人間は笑いながらも説明してくれる。


一日五個って少なくね?

昨日俺……ネロに“核”を五十個頼まれてたんたけど!?

十倍だよ!?

複合魔術使って十倍だよ!?

こっちの干渉魔術の方がまだ簡単だと思うんだけど!?

なに、そのホワイト会社!

俺の所がブラックなの初めて気が付いたわ……。


俺は気付かなくても良い事に気付いてしまったが、気を取り直して液状化させた“核”について聞いてみる。


「ところで……この液体は魔道具?……魔術か何かなのか?」


「おお!良い所に目をつけるね!それは俺が考案したんだよ!」


聞いて欲しかった様で、顔を明るくさせ笑顔で言葉を続けた。


「これは体内に浸透させるものなんだ!ゴーレムを参考に改良に改良を重ねたんだ!素材は死体を使ってね?死体は血液が流れてないから、液状化させたものを体内に入れて、この陣の上に乗せると液体が体内で陣を描いてくれるって仕組みなんだ!」


人間の一人が近くにあった紙を手に取ると説明しながら紙に陣を描いて見せてくる。


死体を使ってる……?

ゴーレムみたいに土で作るロボットの様な存在を人間の死体でやってるって事か??

それって死んでるから殺しても死なないじゃん。

ゾンビ……ぇー……。

ゾンビの血肉を身体に巻き付けたら素通り出来るとか……そんなん無さそうだよな……。

ゴーレムに似てるなら命令を聞くゾンビ……逃げられ無さそう。


俺が途方に暮れていると、ネロが口を開いた。


「死体はどこから来るんだ?流石に大量殺人とかは……してないんだろ?」


「そりゃそうさ。死体は色んな所にあるよ。まずは死刑囚だろ?それから、魔物に殺された冒険者……これは、状態が良いのしか仕入れないがな。後は、スラム街に行ったらゴロゴロと落ちているし……。」


「液状化させる前の頃は金が足りなくて街から適当な人間を集めたりもしてたな。」


「後からバレて、凄く怒られてた記憶があるよ。」


「流石に街の人を使うのは自重しろって言われたな。」


「そうだったな。でも、それからは素材や金をたくさん出してくれる様にもなったから結果は良かったんじゃないか?」


…………聞いていて吐き気がしそうだ。


死体を……人間を素材としてしか見ていない、その言葉に俺は嫌悪感を覚える。

ネロとラルフの様子を見ても、俺と似たような感情になっていた。


俺は二人の人間の会話を聞いて思い出した事があった。


───「そんな事をする人とは思わなかった。」

───「急に人が変わった様に思う。」

そう、街で“もどき”の情報を集めている時だ。

他の人も言葉は変わるが同じ意味の内容を口にしていた。

それは、こいつらが……金が無いからと言う理由だけで街の人達を使って実験をしていた時の事なんだろう。


狂ってる。


俺が人間にそんな印象を持っていると、今度はラルフが言葉を発した。


「えーと、身体の中にソレを入れてー、魔法陣で身体の中で魔法陣を描くんだよねー?」


「その通りだ!ははは、良く理解しているじゃないか!」


「うーん、そーすると……死体はどんな風になるのー?」


「今はまだ研究段階で「このローブを着ている人以外を殺傷さっしょうする事」しか出来無いんだが……そうだ、見てもらった方が早いな。」


二人の人間は自分達がしている研究を説明出来るのが嬉しいのか、意気揚々と部屋から出ていった。


『死体を使うなんてな……。』


『最低な奴らだな。』


『静かに寝かせてあげてほしーなー。』


ネロ、俺、ラルフはそれぞれの感想を言語を変えて一言ずつ言葉を交わし、すぐに人間の後をついていく。


着いていった先は今までよりも広い部屋だった。

そこから、あの“もどき”のうめき声に似た別の声が響き渡っている。

部屋の中はいくつもの牢屋が建ち並び、その中には何人もの人間が入れられていた。

牢屋の中にいる人間は……人間の姿をしているが所々腐れ落ち、中には眼球が無い者、傷口が化膿している者、皮膚が膨れ上がり人間と言われなければ元々人間だったと分からない姿の者もいた。


『うわ……。』


『何だよ、これ……。』


『鼻がまがるー!』


俺とネロ、ラルフは小声で声を出すが、見るからに現実離れした光景が目の前に広がっていた。


いや、転生してる俺はこの世界自体が現実離れしてるんだけどさ。

それにしても……ひどい。


部屋の中に腐敗臭が蔓延まんえんしている。


つい鼻をつまみたくなるが、案内してきた人間は慣れている様子で牢屋に近付いて行く。


俺達に意識が向いていない事を確認してから、俺は結界と防御膜をネロとラルフにも施した。


匂いは完全に遮断出来ないが、ある程度はマシになった。


あのまま居たら鼻が使い物にならなくなりそうだしな……。


「これが俺達が今している研究なんだ!どうだ?死体が再利用出来るなんて素晴らしい事じゃないか?」


「そ、そうだな……。」


人間の問い掛けに、俺は賛同したく無かったが言葉を放った。


こんなもんに賛同出来るかっ!


俺はそんな気持ちを抑え、人間の言葉を聞く。


「本当に素晴らしい……。この研究が成功すれば、この国を正常に戻す事が出来る……。」


うっとりと言葉を紡ぐ人間に、どういう事かと聞こうとした時に トタトタ と軽い足音が俺達が入って来た所とは別の所から聞こえて来た。


そこから姿を現したのは、ローブを着た小さな子供。


俺はその姿を見て、驚きのあまり言葉に出してしまった。


「…………ショーン?」


















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