──第35話──

ネロとラルフの元に戻ると、ラルフが煙の中で魔物を投げ飛ばし、ネロがその魔物を縛っていた。


『ルディ!どこ行って……って何だ!?その格好!?』


『ルディー?……えー!!どうしたの!?』


ネロが自分の手元から俺に目をやると驚いた声を上げていた。

ネロの声で俺に気が付いたラルフも同じ様に驚いていた。


その言葉で自分の姿を確認すると、身体中に血が付いている。

至近距離で人間が爆発したので、当然と言えば当然だ。


『大丈夫。俺の血じゃない。』


『ったく。何してたんだ、お前は……。』


『そーなのー?なら、良いやー!』


なら良いのか、ラルフ。

血まみれなんだぞ、俺。

ネロは心配してくれてるってのに。


俺はネロの側へ行き、ネロとラルフを【鑑定】し、ラルフが麻痺状態にあるのを確認した。


『ラルフ!交代する!こっちに戻ってきてくれ!』


『分かったー!』


ラルフが俺の元へ駆け寄り、俺はすぐにラルフに【治癒】を使った。

ついでにネロにもかける。


『ルディありがとー!』


『……ルディ、魔力は温存しとけ。』


『【治癒】は疲労回復も出来るからな。ネロにはまだまだ働いてもらわないと。』


『ふん。言われなくてもやるさ。』


俺の好意に対してネロに叱られたので軽口を叩き、毒薬を渡してから俺は霧の中にいる魔物に向かう。


霧が晴れそうになると、ネロやラルフがすかさず液体をばら蒔く。

俺はひたすらに魔物を二人に向けて飛ばしていく。


魔物の小さく悲痛な叫びが耳から離れなかった。


その声に蓋をして、ただ目の前から迫る魔物に集中する。






もう何匹相手にしたか分からない。

【索敵】を頼りに魔物の位置を特定し、場所を変え同じ事を繰り返していた。


日が傾き始めた頃には俺達がいる付近には魔物の反応は無かった。


『これで終わったのか……?』


俺が声を掛けると、二人は疲労の色が見えていたが、それを隠した明るい声で返事が返ってきた。


『終わったんじゃ、ないか?』


『辺りは、何も、いないよー?』


『だな。闘技場に、行くか。』


『ああ。』

『うん!』


俺達は周りに魔物がいないか、もう一度確認してから闘技場へ向かった。


闘技場に着くと、入り口にジョセフが立っていた。

俺達に気が付いたジョセフは大きく手を振っている。


『よお、そっちは大丈夫だったか?』


『だいじょーぶだよ!』

『問題無い。』


『ルディは……どうした、その格好。』


『俺のじゃないから平気。他の所はどうだった?』


『ああ……毒の威力が思ったよりも強くてな。前にルディから貰った解毒薬を使って何とかなったが、結界の近くまで魔物に迫られた。』


『ええー!?』

『……里は?』


『増援したから里には影響は無かったが、結界にヒビが入ってしまってな。ライアに余分な魔力を使わせてしまった。』


『それで……母さんは無事なの……?』


俺達の所が大丈夫でも、他が大丈夫だとは限らない。

解毒薬もちゃんと渡していれば無駄な時間が省け、ライアに余分な魔力を使わせなくても良かったかもしれない。


俺の考えが足りなかったせいで、ライアにもしもの事があったら……。


『ルディ、そんな不安そうな顔をするな。ライアは大丈夫だ、安心しろ。カインや周りの奴らが頑張っていたからな。』


『そう……良かった……。』


ほっと胸を撫で下ろす。


良かった。

生命力を使わずに済んだんだ。


すると、里の一人が駆け寄りジョセフに耳打ちをし、一言二言話すと直ぐに闘技場に向かった。


『ルディ達が最後だったからな。ルディ達が見えた時に、ライアに結界を元に戻して大丈夫だと伝えて貰ったんだ。今、ライアは魔力の使いすぎで眠っているらしい。カインが側に付き添っているから心配はいらんってさ。』


『ありがとう、ジョセフおじさん。』


『ルディ、良かったねー!』

『……良かったな。』


『うん、ありがとう。二人とも。』


二人がいなかったら、きっとこの作戦も無かっただろう。

ネロが俺を叱責し、ネロとラルフの二人の案があったからこそ、今回、上手く行ったのだと思う。

その意味も込めて二人にお礼を言うと、二人は笑顔で返事をしてくれた。


『それで、ルディに頼まれた麻がらは闘技場に適当に置いたけど良かったか?』


『うん。薪も、もう置いてある?』


『ああ、ちゃんと置いてあるぞ。』


『分かった。ありがとう。』


俺とジョセフの会話で不思議に思ったのか、ネロが言葉を挟んできた。


『麻がらって何に使うんだ?燃やすだけなら薪だけで良いんじゃないのか?』


『んー……ちゃんとあの世に行く為の道……かな?』


『どういう事だ?』


『何となくやりたいなって思っただけ。』


『あ、そう……。』


ネロに呆れられてしまった。


やり方があっているかは分からないが、麻がらを燃やす事で前世で言う“送り火”をしたかっただけなのだ。

ジョセフから聞いた話の違和感。

それだけしか情報は無かったが、何となくちゃんと弔いはした方が良いと考えた。


〈闇落〉は〈闇落〉として生まれるモノや負の感情によって産み出されるモノ。

だけど、今回はそのどちらにも当てはまらない。


先程まで相手にしていた魔物を思い出してみる。


何か無理矢理……。

他者から植え付けられているのか……。

そう、何か別の要因がある様な感じがした。


〈闇落〉にある独特の雰囲気が無く、どこにでもいる普通の魔物の雰囲気なのに中身だけが〈闇落〉に似ている。


それに、『タスケテ』と声が聞こえて来た。

何をどう助ければ良かったのか分からないが、この弔いで少しでも救われてくれれば良いと、俺は思う。


そして、俺達は闘技場の壁の上に飛び乗った。

ジョセフ、ネロ、ラルフは一回で飛び乗れたが、俺は一度足元に結界を張って二段ジャンプで飛び乗る。
















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